2024/02/12 貝塚茂樹「中国の歴史 中」(岩波新書)-2 五大十国・宋から元まで。同じ中国文化圏のなかで分裂と統合を繰り返す。 1969年の続き
明から中華人民共和国の建国までの600年を新書一冊で取り上げるのは無理がありすぎた。そのうえ、著者はこの時代の研究者ではないので、記述は薄く、さえた説明もない。人名と事件がたんたんと取り上げられるばかりで、それがどのような意味を持つのか深く検討することはない。ものすごい勢いでページをめくってしまった。気になるところをメモしておく。
明と清の歴史は河出文庫の世界の歴史のほうが詳しい。
明の時代は中国の大航海時代。東南アジアからインドまでの海路を作った。ちょうどヨーロッパの海路もここまで来ていたので海路の貿易が始まる(そのために陸路のシルクロードが衰え、西域の諸国が窮乏化)。だが中国はそれ以上海路を広げることをしなかった(まあ世界の帝国であるので、輸入しなければならない強い意欲はなかったのだろう)。そのため、19世紀になるとヨーロッパが中国に来て、植民地化を図るのだ。
豊臣秀吉が16世紀末に行った朝鮮の役は明の国力を削ぎ、投資や開発が遅れる原因になる。
清は初めての満州民族による中国本土の統一国家。少数の満州民族が多数の漢民族を統治する専制君主国家。18世紀は安定。19世紀になると海路の西洋と陸路のロシアが領土侵犯や不平等な交易、外交などを強要する。後半には封建制からいきなり帝国主義国家(しかも宗教国家)になった日本が列強の侵略に加わる(日本は、西洋が中国と日本に行った干渉や侵略をそっくりまねてアイヌ・沖縄・朝鮮・台湾・中国・東南アジアその他に干渉し、侵略して植民地にした)。
中国視点からすると、阿片戦争、日清戦争、日露戦争、ロシアの領土侵犯、フランスによるベトナム占領はすべて帝国主義国家からの侵略行為であった。近代化していない君主制国家は対抗できない。近代化官僚と保守派官僚が対立し、反満州・排外主義の宗教農民運動が起こる。戦争や紛争に負け続ける清は多額の賠償金を支払うことになり、国家財政が破綻。20世紀初頭には日本で結党した革命組織が独立運動を起こす。絶え間ない戦争(上記の戦争のほかにも、駐留軍隊と治安部隊で衝突・発砲騒ぎは日常的)でますます混乱。国家の権威低下。
1912年に清皇帝が退位し共和政体を標榜する中華民国が建国される。しかし統括する孫文がなくなると、袁世凱・蒋介石と続く軍閥によって反共国家に変貌。1920年代にできた共産党と長い内戦になる。WW1とロシア革命以降ヨーロッパとアメリカは中国にまで手が回らなくなったので、日本が西洋諸国に代わって侵略を一手に引き受ける。中華民国(1912~1949)はまことに対日本の戦争に明け暮れる日々であった。
中国の近代史は河出文庫の世界の歴史を参照。
odd-hatch.hatenablog.jp
1960年代に書かれたので、中国の近現代史を革命史としてとらえがち。そのために反政府の対抗運動や帝国主義国家による侵略と戦争は記述されるが、中国の政府が何をしたか、どういう意図だったか、どういう結果になったかの考察はない。そのために明も清も中華民国も何も考えていない空虚な政体になってしまった。
また17~18世紀から中国は世界史に参加するのであるが、ヨーロッパの世界システムとの関係も考察されない。西洋の悪逆な帝国主義国家に侵略される無能な国家とかわいそうな人民という構図でとらえがち。これでは歴史をみたことにはならないなあ。
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