odd_hatchの読書ノート

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貝塚茂樹「中国の歴史 上」(岩波新書)-2 秦・漢から三国志の時代まで。都市国家連合から官僚による専制国家が誕生。

2024/02/16 貝塚茂樹「中国の歴史 上」(岩波新書)-1 古代から春秋戦国まで。宗教都市国家が官僚制国家に成長する。 1964年の続き

 

 中国の歴史の中でも最も人気がある「史記」と「三国志」の時代。たいていはパワーゲームや戦略・戦術に目を奪われるようだ。さまざまな英雄の類型が登場し、感情移入しやすい。でもこれらの混乱の時期はごくわずか。都市国家が吸収されて巨大帝国になり、技術革新が起きて生産性があがり、東西交易と貨幣制度が始まり、ゆっくりとしかし大きな変化が起きたのを確認しないといけない。
 この時代から中国は周辺のことを記録しだしたので、いま日本と呼ばれる列島もわずかにテキストの記録が残る。列島の歴史を知る貴重な情報であるのと同時に、中国と列島のタイムラグにも注意しよう。中国で巨大帝国ができたとき、列島にあったのは部族社会(トライブ:~数百人)ないし首長社会(チーフダム:~数千人)だった。

・紀元前2世紀ころになって、都市国家連合の中から全土統一をめざす者が現れた。成功して秦という国になった。始皇帝を名乗る独裁者はこれまでの伝統を破壊する政策をとる。すなわち、都市国家自治を認めず、中央から派遣する官僚に統治させた(これで為政者と土地の関係がきれる。その都市の住民は政治参加から疎外される)。中央で作った法律をあまねく全土に広め、これを裁判や判断の指標にする。これが郡県制と律令制のもとになり、以後の帝国が継承する。諸子百家のうち法家を採用し、儒教を切り捨てる。これも祖霊信仰による統合ができないようにし、秦の中央集権国家の権力と権威を強くすることになる。文字・貨幣・度量衡・暦を統一し、全土が統一フォントを使用するようになる。道その他のインフラ整備(統治、交通、交易を簡便化)を行う。

・領土拡大方針を取り、西に進出。そこで遊牧民と衝突が始まる。始皇帝の没後、部下による抗争、地方豪族の反乱がおきて秦は滅亡。紆余曲折から一般民出身の男が漢帝国を作る。
漢帝国の特長は儒教的官僚国家、文人統治であること。各地の王を土地から切り離し、首都に住まわせて貴族にした。租税収入で暮らせるようにしたので、代替わりすると領地との関係が薄れていく(日本の朝廷貴族と同じだね)。

・秦と同じく領土拡大政策をとる。その過程で大陸を東西につなぐシルクロードができ、ペルシャ・インドと陸路の交易が始まる。あまりに遠すぎてローマとは人も物も結び付かなかった。シルクロードの交易では仏教の伝来が重要。このあと数百年かけて帝国の宗教になる。

漢帝国は約400年の安定した政治を実現した。これが覆ったのは、1.遊牧民との終わらない戦争、2.経済格差拡大と失敗した税政策で多発した農民戦争、3.世襲制貴族の堕落と官僚たちの政争。これらがあいまり、2世紀ころには統治能力を失い、地方の豪族などによる群雄割拠が始まる。地方で大土地所有者が生まれ、独自の権力と権威を持つようになった。群雄割拠は交通と流通を止め、自給自足経済になった。

・皇帝(これは始皇帝の造語なのだそう)への忠誠による古代帝国のしくみがうまくいかなくなり、地方の豪族が主従関係を強化する封建制ができ始める。皇帝への忠誠が宗教感情にもとづいていたのだが、それが薄れると経済や心情による主従の関係のほうが優先されるというわけか。
(この辺の統治体制の変化は、数百年遅れで列島の権力が経験したことと同じ。でも中国のシステムと日本のシステムは異なる。)

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2024/02/13 貝塚茂樹「中国の歴史 中」(岩波新書)-1 五胡十六国・南北朝から隋・唐まで。中国はいつも人口過剰なので、労働生産性をあげたり機械化する意欲に欠けていた。 1969年に続く