odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

貝塚茂樹「中国の歴史 中」(岩波新書)-2 五大十国・宋から元まで。同じ中国文化圏のなかで分裂と統合を繰り返す。

2024/02/13 貝塚茂樹「中国の歴史 中」(岩波新書)-1 五胡十六国・南北朝から隋・唐まで。中国はいつも人口過剰なので、労働生産性をあげたり機械化する意欲に欠けていた。 1969年の続き

 

 古代中国史の泰斗も、中世になると学識は及ばないのか、平坦な記述になってしまう。ひとりで一国の通史を書くことはかくも困難。 



 この期間と同じ時期を概観したのが、こちら。ほぼ同時期の書籍。新書で100ページにも満たない本書の記述より、その数倍かけて記述できたリンク先のほうが読みでがある。

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 上掲書の感想でこの時代のことは詳細にメモを取ったので、ここではあまり書くことがない。あいにくこれも半世紀以上前になってしまったので、別書で補完したほうが良い。政治史と英雄の活躍ばかりで、経済学や社会学による分析が欠けているので。

・400年もの平安を実現した大帝国・唐も外患内憂によって滅亡。周辺民族が個々に国家を作って漢民族が作った国家を囲む。それぞれが互いに抗争するので、なかなか平安は訪れない。囚人ゲームで悪手ばかりを打っている参加者のよう。
(下の感想にも関係するが、こういう分裂のときに、国家連合や超国家組織を作る発想が中国では生まれなかった。武力による侵攻か、朝貢を求める従属化か。ここが個人主義や民主主義のない中国の特長。)

・宋ができてかなり長い間平安が訪れる。本書では宋の時代は不安定で外征や内乱ばかりであることが強調されている。とくに特長のない時代をみているようだ。
 でも最近の研究では宋の先進性を認めているようだ。上の感想と下記の感想を参考に。この時代に宋はヨーロッパに先んじて近世になる可能性があった。

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・しかし分裂の動きは起こり、今度はモンゴルの遊牧民ユーラシア大陸をほぼ領地とする大帝国を作った。反中国であることを鮮明にして、中国化しなかった。人種や民族による序列をつくった。元は内紛で90年足らずで崩壊する。
遊牧民は政治組織を作ることは苦手で、現地の統治は元からいるエリート官僚と組織に任せていたというのがある。本書の記述はモンゴルの遊牧民を蔑視している。周辺諸民族への配慮や敬意も不足。)

 

 ヨーロッパは近世から分裂と統合を繰り返してきた。それと同様に、中国も分裂と統合を繰り返す。ヨーロッパとの違いは、分裂と統合による覇権の争いは同じ中国文化圏の中でおこる。中央(漢族)が内紛を起こして、周辺が来ると小国が乱立して分裂する。漢族がまとまって覇権をとると、周辺の民族は中央に従属していた。周辺の民族は中国文化を取り入れた。これは中国が地理的に隔離されていたため。
 周辺の〈外〉からきて、中国化しなかった文化に支配されたのは、モンゴル遊牧民の元と19世紀に中国に到達した〈西洋〉だけ。元は短期間で支配を止め、中国を植民地化しようとした〈西洋〉には中国は徹底的に交戦した。風俗や世俗文化を取り入れても、中国圏を中心にみることはやめない。どこかに従属することを頑強に拒む。ここが中国の特長。

 

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2024/02/09 貝塚茂樹「中国の歴史 下」(岩波新書) 明と清から中華人民共和国まで。世界史に中国が登場する。 1970年に続く