odd_hatchの読書ノート

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インマニュエル・ウォーラーステイン「新版 史的システムとしての資本主義」(岩波書店)-2 資本・企業家は資本蓄積だけが目的であるように、労働者は自らの生存と負担軽減だけが目的。反システムの社会主義は資本主義的世界システムの援軍になる。

2024/05/30 インマニュエル・ウォーラーステイン「新版 史的システムとしての資本主義」(岩波書店)-1 地中海貿易を遮断されたヨーロッパが新大陸での民族浄化と奴隷制、国内の性差別で資本主義を発展させた。 1995年の続き

 

 前言撤回。人種差別(レイシズム)は3章でふれられていました。しかも資本主義の世界システムに基幹に人種差別が含まれているという衝撃的な指摘。なぜそうなるかを詳しく検討している。
 章題はマルクスのもじりだが、「アヘン」の比喩には注意。アヘンは鎮痛剤にも毒にもなるのであり、アヘンは現実を忘れさせる効果を持っている。個人が現実の苦しみを忘れるために(ときに攻撃性を他人にむけさせるために)国家や宗教が供給していることが問題なのだ。章題の「真理」も支配者、権力者が労働者などに押し付けるものが「アヘン」のように使われているという意味だ。
 本書が書かれたのは1983年。なので世界システムに対抗する反システムは、ソ連や中国などの共産主義国家であり、西側諸国の社会主義運動を指している。形式的には1989年の東欧革命から91年のソ連邦崩壊で社会主義の反システムは潰えたという認識に立っている。これは21世紀にはよくわからないかもしれないので、補足しておく。

Ⅲ真理はアヘンである──合理主義と合理化 ・・・ 資本主義を構成するエリート層は普遍主義と合理主義(進歩、中立、近代化、能力主義、科学的文化など)のイデオロギーをふりかざす。資本主義による破壊活動を正当化するため。生産力と能率向上のイデオロギーは労働者の役割を固定化することに働き、エスニックグループは特定の職業や経済的役割を固定化された。それは労働者の階層化と不公平な分配を正当化するイデオロギーとして働く。エスニックグループを区分する際には「文化」が使われ、レイシズムの元になった。レイシズム(人種主義)は資本主義の唯一のイデオロギーエスニックグループはレイシズムにあうことで自己抑圧的になり、外からの圧力で西洋化する抑圧を受ける。一方加害者集団は無給警察の役割を与えられた。
(次の章の記述を先取り。レイシズムは被差別者を追い出すのではなく、システム内にとどめようとする。低い報酬、特定の業種を質の低いものとみなすことを正当化するため。)
(でもこの説明では、世界システムの周辺からでてきて反システムになろうとしたナチスソ連、中国などでの民族浄化を説明できないように思う。)
普遍主義とレイシズムイデオロギーにする世界システムに対抗するのは反システムとナショナリズムであるが、どちらも普遍主義イデオロギーをもっているので(たとえばマルクス)、国家に絡めとられ、国家にはめ込まれた文化を称揚するがかわりにナショナルな文化を抑圧する。こうして反システムもナショナリズムも運動は幻滅に至る。(ときに勝利することがあるが、世界システムの援軍になる。いずれ幻滅が生じるのでいずれ解体し、世界システムに取り込まれる)。
資本主義は20世紀後半には危機にあると見られる(元は1983年)。万物の商品化が完成の域に近づいている、文化と科学が普遍主義に疑いを抱かせている。世界システムはひどいものだが、どんどん悪くなる。

Ⅳ結論──進歩と移行について ・・・ 資本主義的世界経済のイデオロギー自由主義者の進歩思想。封建制からの移行を正当化した。しかし世界システムは成功したか。問題をあげると、エネルギー(と資源)を大量消費、人間の安全性は高まった?、自由や平等は満ちている?、残虐行為を洗練した、労働時間が増え報酬が減った、コモンがなくなった、個人の活動が制限された、国家の管理が強化された、性差別と人種差別が生まれた、格差が拡大し絶対的窮乏層が大多数。
革命は進歩的であるとは限らない。社会主義世界システムの周辺か半周辺にあり、システムの矛盾や束縛がそのまま残されている。社会主義革命は世界システムを変えるとはいえない。資本主義的世界システムに代わる新しいシステムはあるのか?
ブルジョア革命は階級のひっくり返しではなく、没落しつつある貴族階級が地主階級に転向して新しい搾取の形態を作ったとみるべきとのこと。なるほど、イギリス、フランス、アメリカの革命はそのようにみてよさそう。)


 このパートでうなったのは、普遍主義が必然的に人種差別と性差別をうみだすというところ。普遍主義はまさに近代の普遍性でもあって、反世界システム社会主義共産主義ですら普遍主義のイデオロギーをもっている。そのために反システムがシステムの補完になってしまう。これは世界システム論とは別のところでも指摘されていることだが、世界システム論に組み込むことで説得力を増した。 
 アドルノ/ホルクハイマーの「啓蒙の弁証法」を読んでも、啓蒙が野蛮に転化するというテーゼがよくわからなかった。でも啓蒙主義は普遍主義の一部であり、能力主義や科学を親和性があり、ナショナリズムと一緒にあるという本書の指摘ですっかりわかりました。18世紀末の啓蒙主義が野蛮に転化したのではなく、16世紀の資本主義の成立から野蛮であったわけだ。そう理解すると、アメリカ大陸での虐殺行為や黒人奴隷の三角貿易なども普遍主義とレイシズムによって理解できる。世界史を見るときに広がりを持てました。

2024/04/19 上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-1 1990年
2024/04/18 上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-2 1990年

 

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2024/05/27 インマニュエル・ウォーラーステイン「新版 史的システムとしての資本主義」(岩波書店)-3 資本主義的世界システムは危機。その先は新封建国家か民主的ファシズムか。 1995年に続く