odd_hatchの読書ノート

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レーニン「帝国主義」(国民文庫) 1917年初出の資本主義のグローバリゼーション批判。

 1917年初出の資本主義のグローバリゼーション批判の書物だった。この時期レーニンはまだスイスかパリにいてロシアの暴動ないし革命を傍観している状況だった。なので、このような文章を書くことができた。
 いくつかの批判は21世紀初頭であっても通じている。ここで指摘されている資本主義の特徴は、
・金融資本の巨大化。それによる生産資本の取得。多種類の業種を含む巨大企業を形成する。
・複数の生産資本のうち、市場シェアの高い巨大企業間の協力体制。カルテルコングロマリットなど。この状態になって寡占・独占体制が敷かれると、自由競争がなくなり、市場による価格調整機能が失われる。
・資本の国外移転。20世紀初頭の時代は、植民地や後進国家などへの資本参加(ここに書かれている例では直接現地法人を作るのではなく、現地の法人に資本参加し、圧倒的な資金力でもってその国の市場を席巻し、地場産業と現地資本を壊滅させるものであったらしい。
・20世紀初頭における人口増。それを国内市場では吸収できなくなり、格差の拡大があった。貧困層の増加、一方で金融資本の巨大化により、利子生活者も増加。
レーニンの指摘を補完するために、クリストファー・ヒル「レーニンとロシア革命」岩波新書による帝国主義の特徴のまとめを記述しておく。すなわち
1.経済生活において決定的な役割を演じる独占を生み出すほど、生産と資本の集積が高度の発展段階に達すること。
2.銀行資本と産業資本の融合、およびこの金融資本に基礎をおく金融寡頭制の形成。
3.商品輸出とはことなる資本輸出がとくに重要な意義をもつこと。
4.世界を分割する国際的独占資本家団体の成立。
5.最強の資本主義諸国による地球の領土的分割の完了)
 このあたりを指摘したあと、レーニン日和見マルクス主義者を批判することに目を向けてしまう。俎上に挙げられたのは、ドイツのカウツキー。場合によってはイギリスのフェビアン協会。両方合わせて、いわゆる修正主義者たち。まあ、そこらの理論史は好事家に任せておく。
 後付けなのを承知でいうと、この本では
・国家
・軍事
に関する考察がかけている。資本主義=国家であるような西洋の国民国家で、国家がどのような役割を果たしたのか(この時代は保護主義政策を取るところが多かったので、市場獲得競争は熾烈になった)、また植民政策を実行する上で軍隊がどのような役割を果たしたか、を検討することが必要。そのうえで、帝国の目的が「市場と資源と労働力の確保」から「民主主義の擁護」に変わってきたことを別の本で補完する必要がありそう。