odd_hatchの読書ノート

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吉村達也「トリック狂殺人事件」(角川文庫)

 「警視庁捜査一課の烏丸ひろみに届いた招待状。差出人は《トリック卿》。招かれたのはひろみを除いて、すべて大ウソつきの男と女。場所は雪深い山奥の《うそつき荘》。そこで出されるクイズをすべて解くと賞金はなんと6億円。しかし、ゲームに参加した7人を待ち受けていたのは、前代未聞の殺人劇! 吹雪でもないのに全員が雪の中に閉じ込められ、見ている前で犯人が消える! 招待客の中に紛れ込んだ殺人者《トリック卿》とは誰なのか? 雪の密室モノに新境地を開いた傑作登場!」

 江戸川乱歩が「閉ざされた山荘」テーマで小説を書いたらこうなるだろうなあ、というような作品。
 リアリティを無視して、どれだけおもしろいギミックを詰め込めるかというのが、この作品の主題だろう。なにしろ、「氷柱の美女」「油圧ジャッキで雪穴に隠れる家」「新雪に囲まれた館の密室殺人」なんていうのがでてくるからね。江戸川乱歩によくあるギミックだよなあ。それに、その動機でこの事件を準備するのは、コストパフォーマンスに問題がありすぎるだろう、なんてつっこみをしたくなるのだし。もっと安上がりでできるのをどうしてこんなに手間をかける?(だからこの事件の犯人の欲望は「パノラマ島奇談」の犯人のそれによく似ているのだ。江戸川乱歩では、エロスとグロテスクが全面展開した奇想天外なものになっている。でも、吉村達也はそこまでの無意識の欲望を発露することはない。そこは常識的な大人の判断だが、読者を夢中にさせるものにはならなかったなあ。乱歩のはカルト作品になる、吉村のは読み捨て)
 まあ、それを含めての、大人のおとぎ話。というよりは、少年マンガ向けになるのかな。人物描写としてはたいしたことはないのだが、マンガのキャラクターとしてはそれなりに「たって」いるからね。なにしろ登場人物が、実業家、占い師、俳優など、世間にたくさんいるとは思えない人たちだから。映画化したいという希望を作者はもっているらしいが、全員スター俳優にするとそこそこみられるかもしれない。

江戸川乱歩「吸血鬼」(角川文庫) - odd_hatchの読書ノート