odd_hatchの読書ノート

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山田正紀「蜃気楼・13の殺人」(光文社文庫)

 「栗谷村の村おこしマラソン大会の最中、忽然とランナー十三人が消えた!戦国時代の山城・十三曲坂を使った十キロのコースは、途中で抜け出ることのできない、いわば大密室…。後日、消えたランナーの一人が、木に突き刺さった無惨な姿で発見された。奇妙なことに、この一連の出来事が、百五十年前の古文書に書かれていた!? 奇才が挑んだ空前のトリック。」

 うまいなあ。そつがない。水準以上の作品。
 ストーリーはサマリに尽きているので、周辺状況を。探偵役は都会生活に挫折して村に移住してきた一家。積極的に村人たちと交流しようとするが、なかなかうまくいかない。村の青年団とはある程度の意思疎通ができるけど、この村おこしでも小さな役割しか与えられない。エコだのロハスなどと「自然と一体」というスローガンを打ち出しても、人間の住むところには人がいるので、彼らとのコミュニケーション、交通はうまくいかないものだ。主人公が通りすがりの旅行者であれば、手厚くもてなされるだろうけど。
 新本格の駄作とことなるのは、複数の人物描写が的確にできている、ということ。主人公(巻き込まれた嫌々ながらの探偵)とその家族のモノローグがあること。上記のような個人的な感情(殺人事件の中状況にはとりあえず関係しない小状況における)が書かれていることで、すこし感情移入することになる。とはいえ、十分な余韻を残すまでにはいかなかった。冒頭と最後の「又三郎」のモノローグがとってつけたようで、読者に人物の形が生まれない。
 ネタばれをすると、これは怪奇大作戦「霧の童話」なのだ(のように自分が読み取ったということで、作者に問題があるということではない)。怪奇大作戦は1968年(脚本-上原正三)、この作は2002年。35年の時間は、この国に好ましい変化をもたらしたのか、それとも弱者を切り捨てて、都市のみを発展させたのか。