odd_hatchの読書ノート

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桑原武夫「世界の歴史24 戦後の世界」(河出文庫)

 前の巻の「第2次世界大戦」の記述は1953年の朝鮮戦争終結までを記載した(まえがきによる。自分は23巻は未読)。第2次世界大戦を1953年まで拡大する見方は刺激的で、事態をはっきりさせる区分だと思った。すなわちこの国では戦中と戦後を昭和20年1945年8月15日で区切るように考えているが、そのあとの占領と独立承認まで、この国は戦争を行わない敗戦国として過ごしてきた。なので、1952年のサンフランシスコ条約締結までが戦争状態であるとみたほうがよい。そして、この条約締結と独立承認の際にあいまいにしてきたこと(戦争責任であったり、天皇制であったり、領土であったり、戦後補償であったり、慰安婦や強制連行であったり)が21世紀になって問題にされ、この国の後進性と、周辺国の先進性が極めて目立つようになってしまった。そういう視点は1945年8月15日を転換点とする見方では出てこない。なので、1952年や53年までを戦争状態とみなす、前の巻の見方に賛成する(ただし、細部の記述は気に入らなかったので、読まない)。

 さて、この「戦後の世界」では1954年から刊行字の1969年までを扱う。たった15年しか経過していない「現在」を他の巻のような「歴史」として書くことは困難である。どの国にフォーカスすればよいのか、どの事件を重要とみなすのか、だれを歴史を象徴する人物とみなすのか。現在進行中の案件で、その判断を下すのはきわめて困難。
 そこで、「現代」や「戦後」の重要事項を取り上げて小論文にまとめる。テーマは「経済」「都市化」「中国論(当時鎖国状態で情報が極めて乏しい中文化大革命が進行中)」「戦争(核抑止論ベトナム戦争)」「国家」「私生活」「科学技術革命」「情報産業」「国際政治」「宗教観」。いまから50年前の議論。うーん、名だたる論客(河野健二多田道太郎小田実、廣重徹など)が叡智を結集したのだが、今はもう読むに堪えない。当時のとても生き生きとした話題であるのだが、そのあとの進捗を知ってしまうと、彼らの知恵の射程は1980年ころまでしか届いていなかった。そして彼らが想定していた前提を乗り越える大きな変化が起きて、彼らの議論を無効にしてしまった。たとえば、情報産業。1990年に文庫化されるにあたり加筆されているが、そのときの最高速電子計算機のスペックが、21世紀の10年代では10万円で購入できる安物PCより劣るというような。都市の問題は農村から過剰人口流入に公共サービスが追い付かないことが問題になっているが、高齢化社会では都市が限界集落化するようになった。経済においてはアメリカ一番、日本二番の図式で考えていて、ソ連や中国の社会主義国は蚊帳の外。西欧とアメリカ、日本以外の国家の経済発展はまったく考慮されていない。経済発展は将来も継続し、停滞や下降が起こることも想定していない。くわえて、1960年代を多少は知っているものからすると、上記10テーマから漏れたことがむしろそのあとの20世紀後半には大きな問題になった。たとえば、中東、資源枯渇、第三世界、公害・環境破壊。
 米ソ二大国の対立、自由主義(経済)陣営と社会主義(経済)陣営の競争と対立、持続する経済発展などがこの論文の背景にある。これらの前提が崩れるのはその20-30年後であるとすると、彼らの予測の甘さを叱責するわけにはいくまい。実際におきたとき(ソ連社会主義国の崩壊、日本の経済の長期停滞、第三世界の経済発展など)は、われわれは怒りえないことが起きたと強い衝撃をもって受けとめるしかなかったのだから。
 2017年であれば、1960年代を冷静に見直して、歴史を書くことは可能になるだろう。その点では、この本は失敗をあらかじめ予定されていた。とはいえ、そのような「蛮勇」でもって書かれた「現代の世界」はとんとみあたらない。例えば「平成史」はどこかで書かれているのかしら。(「昭和史」岩波新書は昭和30年1955年に書かれた(1959年に改訂)のであるから、あってもよさそうだが。