odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

フィリップ・K・ディック/ロジャー・ゼラズニイ「怒りの神」(サンリオSF文庫)

 小説の背景は、文庫のサマリーに詳しいので、まず引用。メモしながら読んだが、地の文に断片的に語られるので詳細をつかめなかった。

「第三次大戦で地球は全滅した。人々が奇妙な逆説を信仰したためだった。エネルギー調査開発庁長官カールトン・ルフトオイフェルは数字の詐術を巧妙に使った演説で人々を説得したのだ。国家の機能は一定の生存者がなければ維持されないというのは嘘だ。マイクロ化されたデータのカプセルが安全に貯蔵されていれば愛国的思考形態は残っていく。1983年の演説で彼はそう主張した。そして5000マイル上空の人工衛星から、偉大な無差別爆弾=怒りの神を爆発させた。」

 廃墟になったユタ州シャーロッツヴィル。ここに住む画家ティボール・マクマイスターズ(身体障碍者で、四肢は義手義足、電動車いすで移動する)に今度建立する教会の壁画に「怒りの神」を描いてほしいという依頼が来た。怒りの神=ルフトオイフェルは存命で、彼は神になったというのだ。固辞するのであるが、神父の説得で出発することになる。キリスト教会に対立するSOw(ソウ)の神学博士は薬物中毒の弟子ピート・サンズに追いかけさせ、この企画をつぶそうと試みた。


 荒野の行動は厳しい。「偉大なる神 Great C」と「爬行動物 The Crawlers」@「ウォーゲーム」(朝日ソノラマ文庫)、「自動工場」 Autofac@ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック II」(サンリオSF文庫)で語られたのと同じ冒険をティボールは経験することになる。巨大うじ虫の排泄物に手を浸した時、小鳥の声が聞こえるようになり(ワーグナージークフリート」)、ルフトオイフェルの住む場所を案内する。そのころ「ハンター」がティボールに同行しようと申し出る。彼もルフトオイフェルを探していた(実は暗殺するつもり)。そこにピート・サンズも追いついて、三人で荒野を歩き回る。ハンターの正体を察知した犬のトビーがハンターに殺されたとき、ティボールの怒りが爆発。義手をのばしてハンターを殺す。それはピートらの教団の希望通りであったが、旅は終わらない。雨をよけにはいった納屋で飲んだくれの老人を見つけたとき、ピートは冴えたやり方を思いつく。
 PKDが身辺にいろいろあって小説を書けなくなったときに、9歳年下のロジャー・ゼラズニイと共作することになった。PKDが一章を書いて送ると、ゼラズニイが次の章を書く。それを交互に繰り返して一冊にまとめた。読むと、文体や思想から奇数章がPKDで、偶数章がゼラズニイであるのがわかる。PKDがきっかけをつくり、ゼラズニイがそれを説明・補強する。PKDの奇想をゼラズニイが常識的なSFや通俗神学に落とし込む。ゼラズニイの担当した章は動きがとまり、説明的なのであまりおもしろくない。PKDにとっては、小説を書くためのエクササイズになったのではないかしら。(「ザップ・ガン(P371-72)」所収のインタビューによると、はじめたのは1964年で、後回しにされた仕事。楽しみのためにやるアマチュア仕事みたいなもの、だとのこと。)
 ティボールトピーとからすると、この任務は聖杯探索の冒険。さまざまな誘惑や危難にあうも、同じ意図を持つ遍歴の騎士と同行して、聖杯回収に成功する。その点では、 フランス古典「聖杯の探索」(人文書院)の繰り返し。義手義足で電動車いすに乗っていたり、薬物中毒であるのは、選ばれたものである証、聖なるスティグマである。通常忌避される事柄が聖なるものに逆転している。
 この小説では「神は実在する」というテーゼに基づく。通常、神はこの世の外にいて、人間や世界から超越した「外部」にあり、その存在や考えは神秘であり、隠されているのだが、この小説では地球に居る。しかし姿を現さず、言葉を発しない。なぜ神は存在するのに、存在を隠しているのか。これが小説のテーマ。ここではタイトル通りに、神が人に怒っているからという理由。この問題は、あとの「ヴァリス」で繰り返される。この小説では深まりがないので、ここまで。
 1964年SMLA概要受理、1975年8月17日完成原稿SMLA受理、1976年出版。