odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

ロバート・フィッシュ「友情ある殺人」(ハヤカワ文庫)

「懐かしい殺人の事件で人類愛財団から高額の賞金を受け取ったミステリ作家クラブの三人が、楽しい船旅を終え、イギリスに帰ってくる―――悪党二人組がこんな新聞記事を読んでひらめいたこととは、この三人のうちの一人を誘拐して大金をせしめとろうということだった。そして、みごと太っちょのカラザスを誘拐して田舎の農園に連れ込むことに成功したのだが・・・ときすでにおそし、金持の三人は株の暴落で、いつのまにか一文無しになっていたのだ! 悪党二人組への殺人同盟の逆襲とは、またパーシヴァル卿の珍弁論は? ユーモア誘拐物の傑作!」


 というわけで、行く先々で人びとに迷惑をかけずにいられない老作家三人組の登場である。原著1979年、翻訳は1981年なので当時の読者にとっては久方ぶりではあるが、前作から数日もたっていない。
 まあストーリーは上記の通り。頭のよくない悪党二人組の成功しそうな誘拐も、彼らの思惑を超えるおかしなアクションをする作家にきりきりまいさせられる。そのうえ、せっかくの投資(なるほど誘拐というのは一つの事業だ。国家の保安体勢が不十分で、官僚を買収できるようなところでは、産業になっている。しかし、法治国家であり警察国家であるところではまず投資分が回収されることはない)が飢えた作家たちに飲み干されるのを黙ってみていなければならない。
 面白いのは、田舎の農園がかつて貴族の持ち物であったが、20世紀の資本主義に逆らいきれず、没落の末資産を切り売りしていったさきに残った書斎に古い羊皮紙の文書が残るということだろう。1970年代であれば百年前の家もまだ保存され、そこには古い本が残っているのも珍しくないというわけだ(この国でも田舎の地主の家や倉から百年前の自由民権運動の資料が見つかることがあった。色川大吉「自由民権」岩波新書)。ありふれたラテン語の卒業証明書を海賊の宝の隠し場所を書いた秘密文書とする手際を楽しもう(エーコ「フーコーの振り子」)。そしてめずらしく活動的なパーシヴァル卿を見ることになり、最後には老作家の行く末に一筋の明かりを残してくれた作家の温情に感謝に、この楽しいシリーズの最後を一緒に祝おうではないか。