odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

都筑道夫「退職刑事3」(徳間文庫)

 1982年初出のシリーズ第3作。

「大魔術の死体」(1982) ・・・ 抗争中のやくざが拳銃密売をしている。そういうちくりがあったので、売人を刑事が尾行していると、突然銃声。すると、電話ボックス(この20年でほぼ駆逐。写真を見せないとわからない人がいる)で男が射殺されていた。銃声のあったマンション3階の部屋にも射殺された死体と拳銃2丁。一丁は電話ボックスで死んだ男を殺したものだった。奇妙なのは電話ボックスのガラスに銃痕が残っていないこと。見えない銃弾が飛び込んだ? 衣装を付け直すと、新しい酒袋になるのだね。もうひとつの死体を加えて、ややこしい事態になりました。電話ボックスの密室ということでロースン「天外消失」への挑戦状かな。
「仮面の死体」(1981) ・・・ 61歳の社長の妾(これも駆逐された言葉かな)をしている23歳の女が与えられたマンションで首を絞められて殺されていた。発見したのは、勤めているスナックのママと友人の学生。奇妙なのは、死体の顔に般若の面がのせられていること。社長の妻は浮気に感づいて、女に嫌がらせをしていたらしい。それで送られた面だが、自白した社長は見ていないといっている。この錯綜した状況をどうまとめるか。これも古典的なトリックを一工夫して、現代風にアレンジしました。
「人形の死体」(1978) ・・・ 31歳の若い人形作家がアトリエで作業用ののみで突かれていた。死体の血は座布団がほとんど吸っていたが、作り掛けの人形のもつ包丁に擦り付けられていた。容疑者は4人。人形作家のライバルやらできの悪い弟やらモデルの彼氏だったり。最重要容疑者の細君は、そろそろ離婚しそうではあったが、人形作家とのかけで近くの商店街で尻をまくってみせているという奇行をしていた。さて何が起きたのでしょうか。アーティストだと、こういうおかしな利害関係者におかしな動機がついてまわるなあ。あと、初出の1982年にはAVに「露出」というジャンルはなかったけど、細君がやったのよりもっと過激なのがあったな。新宿の歩行者天国ストリーキング(これも駆逐された言葉)をするというような。岡本綺堂修善寺物語」。
「散歩する死体」(1981) ・・・ 午後11時に絞殺された死体が午前1時にコインランドリーで、午後4時に公園で目撃された。まるで散歩しているみたい。被害者は中年の失業男。失業保険はきれているのに、がつがつしない。どうも小銭をかせぐすべがあるようで、調べたら8人をゆすっていたらしい。なんで死体は散歩したのでしょう。「まだ死んでいる」殺人事件はこのあとの発表なので(1988年)、散歩する死体という趣向はお気に入りになったのだな。
「乾いた死体」(1981) ・・・ 料理学校を経営している一家。現在の理事が自宅で腹を刺されて死んだ。居合わせたのはお手伝い兼生徒の女性のみ。他の連中は全員外出していた。おりから帰ってきた母が最後の言葉を聞く。「畜生、雨が降っていたらなあ」。当日は雨が降りそうな天気だった。さて、これだけの情報でなにがわかるでしょう。ケメルマン「九マイルは遠すぎる」への挑戦。あれよりももう少し情報は多いけど、言葉とそれを発した状況から推理するのは同じ。ケメルマンにみたかおんどりゃあと見栄を切るセンセーの姿が見えるよう。
筆まめな死体」(1982) ・・・ フリーライターと称する男が殺された この時代にもうあったんだ 。許嫁に死んだらこの書類を警察に持込めと預かっていたのをあけると、そこには10人の名前。結婚を目指して、ゆすりで金を貯めていたらしい。さらに、几帳面な手帳があって、殺された日に会う人の名前がかいてあった。でも、この男の独特な略字で待分とある。さて、いったいだれでしょうか。アシモフ黒後家蜘蛛の会にありそうな、とりあえずダイイングメッセージ。情報を持っている人には当たり前だけど、そうでないと並の暗号よりてごわくなる。こういう形なら今日でも暗号小説は可能かな。
「料金不足の死体」(1980) ・・・ 英文学専攻で翻訳者の下訳も手伝っている女子大生が刺殺された。お腹には赤ちゃんもいる。さて、奇妙なのは額に40円切手を貼っていること。死ぬ寸前の彼女に去来した思いとは。この奇天烈なダイイングメッセージをどう解くか。クイーンの「Xの悲劇」を父は読んでいる最中で、後期クイーンのダイイングメッセージはややこしすぎると批判している。これは、彼にたいする挑戦かな。自然でなるほどといわせる謎解きでした。


 タイトルに統一性を持たせるというのも、センセーの趣向のひとつ。コーコシリーズの第1作と同様に「〜する死体」でまとめてみました。まあ、この種の趣向の最骨頂は砂絵シリーズで落語の本歌取りをしたときだな。
 もう一つの趣向は、黄金時代の作家への挑戦状。自分程度でもオリジナルを特定できそうなものから、思い当たるのがよくわからないけどありそうな話まで採用。それを現代(1980年代)にあてはめて再話してみました、そのときにオリジナルにあった不自然さを排除し、この国の「現代」ではリアルにあってもおかしくない程度に自然なものにしてみました、という趣き。もちろんオリジナルを知らなくても全然問題ないのだが(というか今回の再読でようやく気付いたダメな私)、オリジナルを知っているともっと面白めますよ。サービスが盛りだくさん。

退職刑事 (3) (徳間文庫)

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