odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

エドワード・D・ホック「怪盗ニックを盗め」(ハヤカワ文庫) 大衆が夢見るような現実のすこし上の世界を描いた高級雑誌向けエンターテインメント。

 価値のあるものは盗まない泥棒ニック・ヴェルヴェットの短編集第2巻。第1巻は、ハヤカワポケットミステリ初発のとき(1976か1977年)に購入して、面白く呼んだ記憶がある。空っぽの部屋から盗め、というような依頼の話が一番良く覚えているな。
 個々の話がどうこうといっても、こういう短編集は意味がない。読み始めたら20分はほかの事を忘れられるようにしますよ、という作者のサービスを心行くまで楽しめばよい。だから、一気に読むのはもったいないことで、別の堅苦しい本を読んでいる間に、一編ずつ読んでいくのがいいだろう。
 アメリカには、高級な雑誌にはこういう短編が入るようになっている。最初はプレイボーイあたりのアイデアだろうが、ここを足がかりにして名を上げた作者はたくさんいる。こういう話の特長は、登場人物(特に主人公)は高級な生活をしているスノビッシュな人で、舞台も一般大衆のすこし上辺りのところ(リゾートだったり、ホテルだったり)、物語は小粋ですこし頭を使う必要があり、暴力とセックスの描写はソフト。まあ、夜八時頃から始まるドラマに似ている。大衆が夢見るような現実のすこし上の世界を書いている。そこには人種差別も、労働争議も、大量殺戮も、飢餓もない。同じような平和がたんたんと続く世界だ。

 怪盗ニック氏シリーズは、『怪盗ニック登場』・『怪盗ニックを盗め』・『怪盗ニックの事件簿』・『怪盗ニック対女怪盗サンドラ』の4冊が出版された。訳者の熱意がここまでの紹介に至ったわけだ。最後の除く3冊を読んだ。