価値のあるものは盗まない泥棒ニック・ヴェルヴェットの短編集第2巻。第1巻は、ハヤカワポケットミステリ初発のとき(1976か1977年)に購入して、面白く呼んだ記憶がある。空っぽの部屋から盗め、というような依頼の話が一番良く覚えているな。
個々の話がどうこうといっても、こういう短編集は意味がない。読み始めたら20分はほかの事を忘れられるようにしますよ、という作者のサービスを心行くまで楽しめばよい。だから、一気に読むのはもったいないことで、別の堅苦しい本を読んでいる間に、一編ずつ読んでいくのがいいだろう。
アメリカには、高級な雑誌にはこういう短編が入るようになっている。最初はプレイボーイあたりのアイデアだろうが、ここを足がかりにして名を上げた作者はたくさんいる。こういう話の特長は、登場人物(特に主人公)は高級な生活をしているスノビッシュな人で、舞台も一般大衆のすこし上辺りのところ(リゾートだったり、ホテルだったり)、物語は小粋ですこし頭を使う必要があり、暴力とセックスの描写はソフト。まあ、夜八時頃から始まるドラマに似ている。大衆が夢見るような現実のすこし上の世界を書いている。そこには人種差別も、労働争議も、大量殺戮も、飢餓もない。同じような平和がたんたんと続く世界だ。
怪盗ニック氏シリーズは、『怪盗ニック登場』・『怪盗ニックを盗め』・『怪盗ニックの事件簿』・『怪盗ニック対女怪盗サンドラ』の4冊が出版された。訳者の熱意がここまでの紹介に至ったわけだ。最後の除く3冊を読んだ。