odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

アンソニー・ギデンズ「第3の道」(日本経済新聞社)

 1990年代。東欧ソ連社会主義が一気に倒壊。1980年代に成立した日英米新自由主義保守政権は貧困層の増加と格差の拡大、国内の差別の拡大などの諸問題を起こした。そこで、リベラルな政権が望まれ、日英米で成立する。そのとき、もっとも実績を残したのがイギリスのブレア政権。政権の理念のもとになったのが、このギデンズの書いた「第3の道」。資本主義でも共産主義でもない(当時はそれしか選択肢がないと思われていた。まあ、それ以前にユーロコミュニズムポーランドの連帯運動などで「人間の顔をした社会主義」運動があって、影響は受けていると思う)、もうひとつの道を構築しようとする試み。それが社会民主主義自由主義経済のしくみは保持するものの、国家の役割を拡大(もちろん市民参加や行動を期待する。「社会起業家」理念もこのころに生まれている)、政治的には民主主義。

社会主義は過去の遺物か ・・・ 1980年代に共産主義国家がつぶれ、新自由主義の政策がとられるようになった。新自由主義は、市場の力を伝統的な制度と結びつける一方、国の結合を揺るがすもの(外国人、移民など)を嫌うという自己矛盾をもち、不平等を積極的に是認し、福祉国家に敵意を持っている。そこでこれに対するためには社会民主主義の新たな意味付けと運動が不可欠。過去の社会主義が持っていた「階級」や「国際主義」、単線的な近代化モデルからは離れなければならない。
(最後のところの補足。階級は若者や女性にはないし、国際主義はネーションステートの枠組みを前提、近代化モデルそのものに問題があるので。あと、社会政策の枠組みを考えるとき、個人的自由と経済的自由の軸でおおよそ4つに分かれる。権威主義(個人的自由=小、経済的自由=小)、保守主義(小、大)、社会主義(大、小)、自由主義(大、大)。おおざっぱなまとめだけど有効。)
5つのジレンマ ・・・ よく問われること。グローバリゼーションは昔からあった?/新しい個人主義って何?/左派と右派の区別って必要?/政治家は将来設計をになうことができるの?/環境問題はどうするの?。そこで「第3の道」ではグローバリゼーションを肯定する。そこでは「権利は責任を伴う(義務ではない)」と「民主主義なくして権威なし(人々の行動と参加による権威の再構築)」と「世界に開かれた多元主義」と「哲学的保守主義」が重要。
(5つのジレンマにはそれぞれ解説と「第3の道」への理念が書かれているが、ここでは省略。)
国家と市民社会 ・・・ 「第3の道」では、国家が政治の単位であるが、同時に国境を横断する統括システムにも参入したコスモポリタン国家をめざす。「民主主義の民主化(敵不在の国家)」「アクティブな市民社会」「民主的家族」がポイント。
(同様に、民主主義の民主化以後の解説と理念はここでは省略。)
社会投資国家 ・・・ 旧来の福祉社会とは異なる理念の新しい混合経済(民間と公営だけではないさまざまな形態の事業や活動があるような経済)を提案。重要なのは「平等を包含、不平等を排除」「可能性の再分配」「限定された能力主義」「公共空間(市民的自由主義)の再生」「労働中心主義を越えて(教育と保障の充実)」「ポジティブ・ウェルフェア」「社会投資国家」
(同様に、ここの理念の説明は省略)
グローバル時代に向けて ・・・ ナショナリズムは国家を統合するのに都合がよいが、好戦的であり移民や外国人などを排除することに向かいがちで、周辺諸国と対立しやすいという問題を持っている。これを抑止するのはコスモポリタン。国家の境を国境で決めるのではなく、フロンティアとし、周辺諸国との協力連携の仕組みに向かう(たとえばEUみたいな)。国家は、アイデンティティの源泉、倫理的コミュニティ、市民の意思を構築するシステムでなければならない。そこで重要なのは「多文化主義(国家コミュニティの支援と社会的公正が不可欠)」「コスモポリタン民主主義」「グローバルなガバナンス(ガバメントではない)」。


 この本は議論の本ではなく、マニュフェストとしての役割がある。理念や方針にページを費やし、分析や経緯はそれほど詳しくない。そういう点では、これは民主主義と社会的公正を実現する運動や活動のマニュアルないし理念の書として読むべき。上にまとめたところに自分は同意します。
 このまとめでは、経済政策にはほとんど触れなかった。もともと1999年に書かれたので、15年の時間が経過すると、そのままを今後の経済政策で実施するわけにはいかない。発表当時から批判があったようだし。ブレア政権の経済政策も自分は詳しくないので、フォーカスすることはないだろう。
 出されて15年たってから読み直すと、当時の状況の制約はあって、さて21世紀の第2ディケイドの諸問題には、「第3の道」はどう対処するのかはなかなか難しい。テロの頻発においてナショナリズムは高揚し、国家の権力が強化され民主主義が抑圧されるようになっている。高齢化社会社会保障負担が大きくなって耐えきれなくなりそうである。技術的なイノベーションがこのところみあたらなくなり経済成長のきっかけが乏しい。などなど。
 あと気になっているのは、柄谷行人「世界共和国へ」(岩波新書)社会民主主義はダメといわれているところ。いずれ読み直すので、その際に検討。ただし、柄谷氏の提唱するアソシエーショナリズムは、うーん、成功例はまず見たらない難しい方向(自身のアクションも頓挫したようだし)。