odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

中野晃一「右傾化する日本政治」(岩波新書) 日本の21世紀の政治は右傾化しているか。答えは、Yes。それもかつてないほどに。欧米のネオナチや極右が日本をうらやむほど。

 日本の21世紀の政治は右傾化しているか。答えは、Yes。それもかつてないほどに。自由民主主義を標榜する国家の中では突出して。欧米のネオナチや極右が日本をうらやむほどに。

 どのような特徴があるか。
1.政治主導(首相官邸に権限集中)
2.国家主義戦後レジームの脱却、憲法改正など復古的国家主義宗教右派の支持と連携)
3.新自由主義ネオリベラリズム
4.対米従属をしながら対米独立
5.歴史捏造主義、排外主義
6.官僚エリート、企業エリート、マスコミなどとの癒着
 詳細にみると相互に整合性の取れない主張がまじりあっているが(分権を求めるネオリベと集権を求める権力集中、対米従属しながら自国を正当化する歴史捏造など)、あいまいで混乱のまま受け入れる層が広範に生まれた。
 どのように生まれたか。敗戦後、55年体制と呼ばれる保革伯仲の状況があった。保守は経済統制と伝統保守自由経済と民主主義のグループが抗争し、革新は社会民主主義共産主義で抗争するという状態にあり、革新の政策を保守が吸い上げて開発主義と国際協調主義の政策がとられていた。1980年代ころから、経済・社会・政治の自由化が進む。それによって保守も革新もそれまでの支持層を失う。開発主義が人口を流動化し、新自由主義的な考えの組合に入らない労働者層を生んだ。様々な公共事業の民営化で、革新勢力(と支持基盤の労働組合)をつぶす。自民党内に新右派につながる新しい勢力が生まれる。彼らは「改革」を自称して、ネオリベの政策と主張をすることで、経団連や農協、医師会などの職業利害集団を守る規制を撤廃しようとする(それにより旧右派が失速)。21世紀になると、新右派が政権を取るようになる。右傾化は新右派が上記の政策と権力を執行することで進んだが、ときに「革新」「リベラル」な政党が政権をとることがある。しかしその政権は長続きせず(多くの理由は官僚とマスコミが支持・応援しないところにある)、次の右派政権になる。そのとき、前の政権より右傾化した政策をとる。この揺れ戻しの繰り返しで右傾化は進行した。

 なぜ右傾化したか。大きな理由は小選挙区制と低投票率。リベラル政党が総計の得票数が大きくても、小選挙区制では第1位の自民党員が議席を獲得し、圧倒的多数を締めてしまう。背景にあるのは新右派が国家主義や家族国家観を持つ宗教団体や政治組織の応援があり、組織票を持っているため。

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 なにが右傾化の問題か。 寡頭支配による政治・行政・司法の腐敗。雇用劣化と格差社会(大企業は労働者を使い捨てにして「自由」に運営できる)。国家権力の集中強化と反自由の政治。違憲状態の定常化、政治・法律・公的法的決定に代わって行政・政令・匿名の処分による支配形態。国際社会から孤立、戦争ができる国。歴史捏造主義と排外主義(ヘイトクライム)。

 どうすれば右傾化を正せるか。小選挙区制の廃止(と投票率向上)、新自由主義との決別など。まあ、市民による活動@アーレントを増やすことだ。

 

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