odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

アルバート・アインシュタイン「物理学はいかに創られたか 上下」(岩波新書) のちに出てくる相対性理論の啓蒙書は本書のバリエーション。

 1939年翻訳初版。wikiによると初版は1950年刊行になっているが、どうしてだろう。なので原著がいつ書かれたのかわからない。本文の記述からすると1925年から1939年の間に執筆されたと思う。新書は1963年に改訳されているので、その間に改訂されたのだろう。

 まず物体があると思いねえ。その物体が動いているのだが、それはいったいなぜか。物体にもいろいろ種類があるが、それを共通して一括で説明することは可能か。そこからはじまる。そして、運動――質量、熱、電気――磁気、光、波、場、座標系(エーテル系批判)、相対性(ローレンツ変換)、時空連続体、相対性理論(特殊と一般)、素粒子、量子物理学と記述される。そして読み進めることによって、ガリレオから現在(上記のように1930-50年)の物理学の基本的な考えを知ることができる。その間に、歴史的経緯やエピソードはない。数式もなし、ほんの少しのイラストで力学から量子物理学を説明する啓蒙書はまずみあたらない。これはなかなかのはなれわざ。おもしろかったのは、相対性理論通俗的な説明にでてくるさまざまな比喩や説明モデル(ふたつの座標系の時計が別の時刻をさすとか、無限に落下するエレベーターとか、エレベーターに差し込む光の軌道とか)がこの本にでてくること。いい加減なおもいつきだけど、のちに出てくる相対性理論の啓蒙書はこの本のヴァリエーションにおもえるくらい。
 とはいえ、高校で物理IIを選択しなかった自分は「場」のあたりでギブアップ。あとは、自分の断片的な知識が書かれているのを確認して楽しむくらい。内容は、高校から大学初年くらいまでだと思うのだが、こちらの知力が足りなかった。
 そこで、アインシュタイン(と共著者)の科学的方法に注目。読みながら書いたメモを登場順にあげると
・科学は「自然」(という書物)を読む行為。それは探偵賞小説に模せられる。
・直観はしばしば誤る。
・知識には理想的な極限があり、極限を客観的心理という(要するに、ゼロイチ、白黒はっきりつく「真理」はないよ、いっぽう多くの人が検証して正しさを確認している知識はそう簡単には覆されないよ、ということだ)。
・科学は自然現象を形式的な表現(物理学だと数式を使う)で記述する行為(ここでも「真理」そのものの獲得を目的にはしていないことに注目)。
・問題を公式的に示すことは、問題を解くよりも本質的(問題設定が誤ったり、記述があいまいだと問題を解くのに障害になるのだな)。そのときに、問題を簡単にすることが有効(理想化された状態を設定するとか、条件を一定にするとか)後、表面的には異なる現象であっても、共通する諸点を見出すことで、問題の記述を新しくすることができ、解くことが可能になる。
・新しい一般的な法則は過去の既知の法則を包含する。あるいは昔の理論は新しい理論のひとつの特殊な極限を表現する(という考えは科学史の側からみるとそうはいいきれない。こういう発展をしたのはそれこそ力学・天文学くらい。ほかの科学の諸分野だと複数の理論が乱立する一時期と一つの理論にまとめられる時期を繰り返すことがある。クーンのパラダイム論を参考に。)
 というところがアインシュタインの考える科学的な方法。とても勉強になります。そういう考え方を身につけたいものです。最後の箇条でつっこんだように、物理学には適用しても、他の科学の諸分野には対応できないところもあるので、注意深くあることが必要です。