odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「少年小説コレクション4」(本の雑誌社)-「妖怪紳士」「ぼくボクとぼく」

 1960-70年のジュブナイルのうち、SF、ホラーの系統にある長編を3つ収録。
 「妖怪紳士」は週刊少年キングに連載(このころにはマガジン、サンデー、ジャンプはマンガのみになっていたので、小説の連載はめずらしい)。この時代を思い出すと、1965年から水木しげるの妖怪漫画がテレビに登場。アニメの「ゲゲゲの鬼太郎」、実写の「悪魔くん」「河童の三平」。妖怪ものは人気が出て、映画の「妖怪百物語」「妖怪大戦争」などもあった。こうして都筑道夫の作を読み直すと、「悪魔くん」のキャラで映画を語り直したという感じ。当時の読者にもとっかかりやすかったのではないかな。


妖怪紳士 1967.5.21-1968.1.1 ・・・ 悠久の昔、神と呼ばれるものが妖怪を閉じ込めていたが、牢の番人の不手際で逃げ出し、地上に現れた。先生と呼ばれるものに率いられた妖怪たちは世界征服の手始めに日本を最初に襲うことにした。突然の吹雪にあった章一少年はシルクハットにサングラスぼろぼろの燕尾服を着た、通称「折れた角」に助けられる。折れた角こそ牢の番人。妖怪を退治するために、地上に現れた。章一少年と折れた角の大冒険。たたかう妖怪は
水ゆうれい/貝やぐら/人面瘡/のっぺら坊/片輪車/吸血鬼/一つ目の巨人/鬼かがみ/ひだる神/猫股
 古今東西の妖怪が登場し、関東から琵琶湖まで列島の3分の1を舞台にし、現代(昭和40年代)のアイテム(ヘリコプター、ブルドーザー、自衛隊など)も登場する。最後には宇宙の善と悪の神の対決、選ばれし伝説の勇者の覚醒もあるという、ジェットコースターのノンストップアクション。これを21世紀のSFX(死語)技術を駆使して映画化するといけるんじゃない。

妖怪紳士(第2部) 1968.8.25-1969.1.1 ・・・ 小学6年生の沢村浩におじいさんの玄太郎(途中から光太郎になる。作者にしては珍しいミス。それを修正しないで初出のまま採録する編集者と出版社もいさぎよい)からすぐに来てくれと電話がかかる。おじいさんは妖怪研究の学者。別荘にいくと玄太郎博士はいない。途方に暮れているところに妖怪紳士が登場し、異次元の妖怪が現れた、おれはこの世界の妖怪といっしょにたたかうという。浩と兄の大学生・猛は妖怪紳士の戦いに連れ添う。とちゅう、異次元の妖怪につかまった浩は8分の1の大きさに縮められてしまう。このあたりからストーリーはごしゃごしゃに。突然次元航空機が来るわ、次元パトロールの猿飛佐助がでるわ、竜とサルの空中戦になるわ。そこは光太郎博士がデウス・エキス・マキナとなって、大団円。(10数年後の「翔び去りしものの伝説」の先駆といえないこともないが、それにしてもまあ。)


ぼくボクとぼく(さいごのぼくは白抜き活字) ・・・ 奇妙なタイトルにはわけがある。中学1年生の友永幸一くん。坂道を自転車で降りて行ったら、誰かにぶつかりそうになってよけたら転んで・・・。そこには自分がもう一人、いやテレパシーで話かけてくるのを加えると全部で三人の自分がいた。そのままでは区別がつかないので、ぼくボクとぼく(さいごのぼくは白抜き活字)と表記することにする。このままではとんでもないことになる(社会的なアイデンティティは<この私>にしか与えられず、なりすましは排除するという近代国民国家の掟が優先。呪術的な社会では複数の自分がいるのは不思議なことではない)。そこでクラスメートの宮本正子さんとその叔父で独身の画家である小次郎さんの、合計5人で事態の解決にあたる。鍵を握っているのは大沢五郎。平行世界の大沢五郎はマッドサイエンティスト。次元を行き来できる仕組みを作って、この社会を混乱させようとするのだ。ところが彼は集団幻覚の技を持っていて、ぼくボクとぼく(さいごのぼくは白抜き活字)はおかしな幻覚をみせられて、右往左往。三人のぼくはちえをあわせて、現実に脱出を試みる(このあたりは近藤土方シリーズや片岡直次郎シリーズのようなユーモアアクション風)。途中、プールに落っこちて竜宮に行き、竜王の知遇を得る。懸命に対処しているがそこは素人の悲しさ、大沢五郎に捕らえられ、元に戻す代わりに、王女のもっているトカゲのネックレスを奪って来いと取引になる。さて、厳重な監視にある王女から盗むことができるのか・・・。というスパイアクションの話が、ヒロイックファンタジーやSFに広がっていく。この物語の転がし方は爽快。広げた風呂敷の閉じ方もきまっている。中学生の男女の、子供とも色気を知った高校生のものでもない微妙で繊細な関係もまた郷愁を誘う(大人の読者はね。そんな機会に恵まれない同世代には憧れになるはず)。これは傑作。
 単行本がでたのは1970年。初出雑誌はわからない。ゴーゴーとかビキニとか覆面プロレスラーとかのことばがあるのをみると、1967-69年ころと思う。