odd_hatchの読書ノート

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都筑道夫「少年小説コレクション5」(本の雑誌社)-「未来学園」「ロボットDとぼくの冒険」

 1960-80年のジュブナイルのうち、SF、ホラーの系統にあるものを集める。

未来学園 1965.04-1966.03 ・・・ 百年後(2065年)の中学1年生の生活。野村マリとクニオの一卵性双生児が学園に入寮する。そこで起きる騒動。幽霊、電話破壊、消える死体、誘拐、宇宙人、双頭犬、幸運の手紙、おばけ(デマ)、オオカミ男、獅子がしら、<うたう花>。不可解な出来事が科学的知識で説明されるという趣向。当時の未来イメージは東宝特撮の「宇宙防衛軍」「妖星ゴラス」とか「空中都市008」みたいなもの。まあ、プラスティックにステンレスに人造繊維。手元の白物家電が自動化されて、携帯電話や立体テレビがあって、というようなもの。その想像力の範囲内なので、21世紀によむとむしろ懐かしい。

スター・パトロール 1961.09-12 ・・・ 深夜の海で見た怪光。野崎刑事の息子・正夫は不思議な少年メルを見つける。メルはスター・パトロール宇宙警察の隊員だ。さあいっしょに怪獣をやっつけよう。第1話「とうめい怪獣」。人に取りついて操る、クラゲのような怪獣が米軍基地の武器を強奪しようとしている。ウルトラマンの第1話にそっくり。第2話「ゆうれい光線」。ガゼルの研究に来日した米ソの科学者が事故で次々と死んでいく。光線人間と名乗る怪人が、地球征服するぞと姿を現し、博士三人と正夫とメルを人質にとった。こりゃ「地球防衛軍」「怪獣大戦争」で、江戸川乱歩ジュブナイルだ。そうそう、このあとのアニメ「スーパージェッター」。

宇宙からきた吸血鬼 1965.01 ・・・ 嵐の中、自動車で帰宅中に道に迷ってしまった。どこかの山の中で洋館を見つけ、雨宿りを頼む。どうにかいれてもらったら、大男は「すぐに出ていけ、家に食われる」と騒ぐ。最初に子供が読む怪奇小説は基本でなければなりません、といっているよう。

くるった時間 1961.05 ・・・ 小学4年生が草むらで死体を見つけたら、消えていた。その死体と同じ顔の人がバスに乗っている。最初に子供が読むゆうれい小説では科学的な(しかしSF的な)解説をつけなければなりません、といっているよう。

ゆうれい少年 1960.10 ・・・ 家に帰ってきたのに、だれも自分がみえないらしい。最初に子供が読む怪奇小説は(略

いたずらゆうれい 1960.11 ・・・ 懐中電灯で人を脅かしていたら、級友のひとりはまるで驚かないで、にやっと笑って通り過ぎた。最初に子供が読む怪(略

恐怖の銀色めがね 1964.08 ・・・ めがねをかけると人が鳥の姿をした宇宙人に見える。最初に子供(略

暗い鏡 1970.02 ・・・ 山荘のアトリエの鏡に髪を振り乱した女性が映る。ある夜、同じ姿の女性が宿を頼みに来た。結末をあいまいにしたのが、モダンホラーのやりかた。

超能力 1972.03 ・・・ 22世紀の卓球はボールが不規則に変形。とても難しいのに、転校生はとてもうまい。聞くと未来予知能力があるという。試合を渋る彼に未来をみさせたら・・・。

ロボットDとぼくの冒険 1980.04-1981.03 ・・・ 高校生の仲瀬良一君は、自分の住んでいる街なのに知らないところに来てしまった。サーカスが来て、演技の最中に悪漢に襲われる。それを救ったのはロボット刑事アール・ディ・ロン。悪漢の名はドクター・ゼロ。次元航行機を使って、良一とロンをさまざまな平行世界に飛ばしてしまう。ロンの知恵と力と勇気に助けられて、良一は危機を脱し、元の世界に帰る道を探る。おお、「翔び去りしものの伝説」の設定で、「銀河盗賊ビリイ・アレグロ」をやるわけだ。連載終了が近づくにつれて、平行世界はだんだんぐちゃぐちゃになっていく。富士山のふもとで鞍馬天狗新撰組がちゃんばらし、そこにマッド・サイエンティストの発明品が飛び込み、宇宙人の美人刑事もいるという具合。そのとき、天井から大きな声で良一君の名前が呼ばれる。ここで平行世界が作家の空想世界であることがわかり、良一君を除いて全員が架空の(誰かの空想した)存在であることがわかる。こういうのはブラウン「発狂した宇宙」やPKD「虚空の眼」にもあるのだが、ちょっとずれるのは架空の人物が自分が虚構内存在であることを認識したこと。誰かの空想が終われば、自分の存在も消えると知っている。ここで発表のちょっと前に書かれた筒井康隆虚人たち」を思い出した。こんな実験を高校一年生向けの小説でやってしまう(大人向けの小説ではここまでやったことはない)。


 どの小説でも手を抜かないねえ。SF、ホラーが主というが、「未来学園」は謎-捜査-解決のミステリー仕立て。この国にはアシモフのようなSF推理はないとよく言われていたが、こんなところに隠れていた。