odd_hatchの読書ノート

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佐藤圭四朗「世界の歴史06 古代インド」(河出文庫)

 土地と歴史に勘が働かない上、現在のインドをよく知らないので、おざなりな感想になることを事前報告。

 この文明の成立した一帯は海からも陸からも行くのが便利な交通の要地であった。農業生産よりも貿易の拠点として、人と物と富が集積した場所のよう。紀元前3世紀ごろに成立したマウリア朝のころには、陸のシルクロードで漢までの、海路を使ってアラビアからギリシャまでの貿易路ができていた。ふたつのルートの結節するところ。さまざまな民族やグループが行き来するのであって、宗教も多様。ヒンドゥーイスラムのみならず仏教、キリスト教エルサレムを追われた初期キリスト教徒がインドに布教に行くのがよくわからなかったが、当時のアーンドラ朝は最盛期にあったからだった)があり、少数の民族宗教を数えると枚挙にいとまがない。その他の学問、芸術、技術も集積するところであって、東西の文明が出合い、交流していた。
 それは周辺からの侵略を受けやすいということでもあって、この一帯にはなんども他国の侵略があったみたい。証拠がある中では最も古いアーリア人の侵入からそうで、そのあとも、アレクサンドロス大王ギリシャ人に、アラビア系やトルコ系のイスラム人、西域の遊牧民漢民族などが次々とやってきては、征服し、滅ぼされてきた。17世紀になるとイギリスが来て長らく植民地になったわけで、この一帯は征服と支配の繰り返しになっている。
 「インド」と口にするけど、1960年代の調査によると、人種だけで7つの型があって、それぞれに数十の分派がある。言語も100以上あり、使用している人が100万人以上になるものだけで23種類あるという。それなりの共通語もあるだろうが、津軽弁と鹿児島弁の違いで済ますわけにはいかない差異がある。そのために、長らく支配者のことばであった英語が現在の公用語になる。これを多民族共生のための利便とみるのか、植民支配の弊害とみなすのか。この国にいると、ネーションと国家はほぼ同じなのだが、インドはそのようなわけにはいかない。たくさんのネーションを包むように大きな国家がある。そのような国家がネーションより大きいのは、アメリカ、中国、ロシアと一緒であって、<帝国>なのだろう。
 では多数のネーションをどのように共通にしているのかというと、カースト制度。紀元前3000年の前後500年くらいのときに、インダス川流域にインダス文明が成立。この文明が他と違うのは、神殿など祭祀に使う建物に労力を割かなかったところ。ただ、当時使っていた文字が解読されていないので、詳しいところがわからない。この文明はそのあとに侵入してきたアーリア人にとってかわられたのだが、そうなってからつくられたものらしい。権力が強制したものではなくて、呪術やカリスマによる職業の順位と区分であるという。そこに部族の順位と区分もはいっているらしい。
 カーストは、職業技術の伝達、失業防止、セイフティネットというメリットを持っていた。一方で、嫉妬と摩擦をうみ、差別の温床になる。この制度が強いことが、西洋の「市民」感情や意識を成立させない。イギリスから独立したとしても、近代国家のもとになる個人意識や民主主義はなかなか根付かないというわけだ。紀元0年前後には、世界で有数の技術と学問をもっていた。天文学や医術、それに学芸。とくに有名なのは「0(ゼロ)」の発見。それが継承・発展されなかったのもこの制度にあるのかもしれない。
 という具合に散漫な感想。何しろ、かの一帯の人たちは思想を論述したり長大な物語をつくるのには熱心だったが、事件や伝記を書き残すことはおろそかにした。そのために、この本でも事件や年月日はほとんど表れない。「歴史」のありかたもかの一帯の人たちとわれわれは異なるのだなあ。さて、今後はどこをとっかかりに、かの一帯を勉強すればいいのかなあ。