odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

ロバート・マキャモン「スワンソング 下」(福武書店)-2

2019/03/21 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-1 1987年
2019/03/19 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-2 1987年
2019/03/18 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-3 1987年
2019/03/15 ロバート・マキャモン「スワンソング 下」(福武書店)-1 1987年

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 メアリーズ・レストを離れた緋色の眼の男はアーミー・オブ・エクセレンスに合流。人を操る力を使って、マクリンとクローニンガーに近づき、メアリーズ・レストを襲わせる。村人は団結して(この大衆集会の様子がアメリカの草の根民主主義を思わせる内容。独立戦争のときには、こういう集会が各所であったのだろうなあ)、村を守ることにするが、戦車も登場する軍隊に一蹴される。スワンとシスター、ジョシュとロビンが捕らえられる。緋色の眼の男はガラスのリングを探すが、シスターの計略で手元に戻すことができた。
 一行は、ワーウィック山に到着。そこには「神」がいた。彼は山中の扉を秘密の暗号「AOK」で開け、緋色の眼の男、マクリン、クローニンガー、スワン、シスターを制御室に迎え入れる。そこは米軍の残した秘密基地。「神」、狂った合衆国大統領は黒い箱に銀色の鍵を差し込み、エリオット「荒地」の一節を入力して、システムを再起動する。それは核兵器を積んだ人工衛星を極地に落下させる最終兵器。再び地上に核の花火をもたらして、人類の絶滅を測る装置。指令を解除するキーワードは誰も知らない。緋色の眼の男が哄笑するなか、最終時間まであとわずか・・・
 雄渾な物語がひとつさしだされた・・・とは、大瀧啓裕の紹介文であったか。なるほど、その賛辞にふさわしいでき。
 思えば、アフター・ハルマゲドンの小説はあったとしても、その破滅の過程を詳細に描くことはなかった。そこを人間の卑しさ、劣悪さを容赦なく暴き、核の冬の猛威と人間の暴力をこれほど突き放して書いたものはないであろう。ここには無力にさいなまれても生にしがみつくものはいても、人間の愚かさを嘆きニヒリズムシニシズムに陥るものはない。エリートの物語ではないのだ。なるほどこれは現代の技術を反映した黙示録に他ならない。
 黙示録とあえて書いたのは、この小説にはキリスト教の象徴が多々反映しているからであり、そのいくつかはサマリーに紛れ込ませておいた。名前、小道具、土地などに込められた象徴はまだあるはずであり、エピソードにも聖書由来のものがあるだろう。読んでいる最中は忘れてしまうが、核兵器の爆発からあと、地球は曇天におおわれ、明るいくもりと暗いくもりしかないのである。そのような光を遮られた状況であるからこそ、人間は卑屈にも悲嘆にもくれ、やけはちの無目的な日常からドラッグや暴力に向かうものが生まれる。それが7年を経て(この年月にも象徴するものがあるのだろう)、雲に隙間が出て、光が届く。光に照らされた人々は、その光の栄光を仰ぎ見るか、光に照射される己の影を恥じて闇に潜り込むか。いずれにしろ復活は光を浴びることで起こるのであり、そこでの己の生の振り返りがその先を決めるのである。地球のエコロジカルな復興と、「人間性」の回復こそがアフター・ハルマゲドンの経験をへての英知になるのである。いわく「Never Again.」。
(このメッセージは重要なのであるが、この国の国民にはどうか。戦争や公害、自然災害、事故などを経験しても、すぐさま忘れてしまう。原因を解明し、再発防止策をとることが極めて少ない。)
 とはいえ、出版後30年を経るとなると、作者のメッセージにほころびがあるのも否めない。すでにヨブの仮面とスワンの願望については述べた。加えると、スワンは「宥(ゆる)しの神」を自分のものにする。この世の悪(社会的な悪ではなく、宗教的な悪なので注意)を体現する緋色の眼の男に2回、「宥(ゆる)してあげます」と告げる。それが有効であるのは、象徴的な悪はその言葉を理解しパワーを感じることができるから(つまり知恵を持っているから)。なので退散した。しかし、凡庸な悪(ここではアーミー・オブ・エクセレンスの兵士たち)にはこの言葉は通用しない。彼らは知恵を持たないので。誰かに命じられるか、周りが変わったことをみるかでしか、暴力や差別を止めることができない。ここもダメ。
 かつてはマキャモンの最高傑作と信じていたが、三度目の再読では瑕疵が多すぎる。一部はまったく今日的ではない。