odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

ロバート・マキャモン「スワンソング 下」(福武書店)-1

2019/03/21 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-1 1987年
2019/03/19 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-2 1987年
2019/03/18 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-3 1987年

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 あれ(上巻の終わり)から7年。依然として「核の冬」は終わらない。
 ジョシュとスワン、シスターと行きずりの男たちの放浪は続いている。シスターがガラスのリングで見るドリームウォークは次第に形がはっきりして、近くにいることを予感させる。途中、彼らは二つの奇蹟を起こす。すなわち、スワンは凍えた果樹園で薪にされなかったリンゴの木にふれたとき、木に命があるのを知り共感を送る。その翌日、リンゴの木は数百の花をつけていた。シスターは少年たちの集団に捕らえられたとき、銃弾で撃たれた少年に手術を施すことになる。同行するアル中の医師(「駅馬車」のドック・ブーンか「酔いどれ天使」の真田か)は手術道具がないと叫んだ時、ガラスのリングのスパイクに目を付ける。それは発光し、レーザーメスのように肉を切り、止血し、傷口を塞いでいく。
 彼らはメアリーズ・レスト(聖母マリアの休憩所とでもいうか)に集まる。最初は、町の人々はエゴイスティックに受け入れなかったが、スワンが死んだ子供の持っていた枯れたトウモロコシの種をまいたときから、一変する。わずか一晩でトウモロコシは芽をだし、2フィートにまで成長していた。緋色の眼の男がスワンを見つけ出す。スワンを滅ぼそうとするとき、ジョシュらに同行した男が阻止。その葬儀を行ってから、彼らは名乗りあい、仕事を見出す。町を再建するということ。
 スワンの顔は「ヨブの仮面」という厚いかさぶたでおおわれている。高熱を発し、衰弱している中、シスターが訪れ(彼女は「女教皇」のタロウ・カードを持っていて、ジョシュは信頼する)、スワンにガラスのリングにふれさせる。ヨブの仮面にひびが入る。昏睡するスワン(16歳)に、シスターを援助した荒くれ少年団のリーダー、ロビン・オークス(推定17歳)がキスし、スワンは目が覚める(森の英雄ロビン・フッドの末裔が「眠りの森の美女」を発見したというわけだ。ボーイ・ミーツ・ガールの物語)。
 上巻の凄惨な暴力(集団同士が疑惑と憎悪にあって交通がおこなえないから)から一転して、下巻の前半分は希望の章。エゴイズムが消えて、協力が訪れる。そこにはスワンの起こした奇跡が働いているからだが、それよりもジョシュの他人を目的にした倫理的な行為(火事を起こした納屋から老いた馬を助けること、スワンを護った男の葬儀を行うこと)が人々を変えた。ジョシュもまた印刷機を発見したグローリー・ボーウェン(町のリーダーの寡婦:グローリーは「栄光」)が亡き夫の意志を継ぐことを決意したことに、これらの行動をするように促されている。こういう倫理が友愛のコミュニティを作り直す。
(ひとつとても気に入らないのは、ヨブの仮面のこと。この「病」は高熱を発した後に、顔貌を変える。その怪異な容貌が人の差別心を測ることになるのであるがそれは置いておくとして、かさぶたがはがれた後に内面を映し出すような顔貌になる。このような外見と内面は一致するという考えは危険ではないか。種々の差別は外見から内面を勝手に憶測して、侮蔑や排除をもたらしたのだし。そのうえ生まれながらの赤痣などがヨブの仮面で消えた、優しい男の子だったから、というエピソードもだめだ。現在ある赤痣を「悪」であると決めつけるようではないか。そのうえ、スワンの顔貌が白人女性の「美点」を集めたものになっているのも。ジョシュの役割もハリウッド映画で白人のヒーローとヒロインを引き立てる黒人役を割り当てられているのも。たぶん、その批判はマキャモンにも届いたとみえ、数年後の「遥か南へ」では克服されているようなので、この程度の指摘にとどめよう。)
 緋色の眼の男はメアリーズ・レストに来ていた。果樹園の林檎がたくさんなって町の人々に届けられる。トラックから投げ込まれるリンゴに人々が狂乱する。スワンがひとりになって、そこに緋色の眼の男が憎悪と殺意をあらわにして近寄る。スワンは逃げ出さず、男の眼をみる。そこに怯えを見出す。「あなたを宥(ゆる)してあげる」といってリンゴを差し出す。男はほとんど受け取りそうになるが、嗚咽を上げて逃げ出す。ここがこの小説全体のクライマックス。地の底からの憎悪や殺意を「愛」が超越するわけだ。このリンゴはエデンの園の知恵の木の実であるだろうし、ガリラヤ湖でイエスがわけたパンでもあるだろうし、ヨハネが注ぐ水でもあるだろう。「宥す」という一言が倫理的な勝利になるということだ。
(とはいえ、世の中の狂信者や故意犯は、そのような言葉で改心しない。ねじ曲がってはいても論理的に考えられる緋色の眼の男は改心の可能性を示すが、マクリンやクローニンガーには改心は訪れない。なにしろ、他人の言葉を聞かないから。その点ではナチス信奉者や差別主義者、排外主義者も同じ。)
 以上、第8章から第12章までの要約。マクリンとクローニンガーは東への進軍の最中にある噂を聞く。ウェストヴァージニア州ワーウィック山に神がいる。神は黒い箱と銀色の鍵を持ち、世界の終わりを告げるという。マクリンらのAOEはほかの私設軍と交戦しながら戦力を集め、ワーウィック山に向かう。途中にはメアリーズ・レストがある。 

  

2019/03/14 ロバート・マキャモン「スワンソング 下」(福武書店)-2 1987年