odd_hatchの読書ノート

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ロバート・マキャモン「ミステリー・ウォーク 下」(福武書店・創元推理文庫)-1

2019/04/01 ロバート・マキャモン「ミステリー・ウォーク 上」(福武書店・創元推理文庫) 1983年

 小説は三部構成。
 第1部は高校を卒業するまで。小学校の友人の家で、父が狂気に陥った。一家を惨殺したが、ビリーの友人だけ発見されない。ある日、廃墟の家の近くに来た時、異様な感覚で地下室に導かれる。そして能力が覚醒。母ラモーナと祖母レベッカをメンターにした訓練が課される。そこではじめて「シェイプ・チェンジャー」と出会う。高校を孤独に過ごしたビリーはダンスパーティで前エントリーに書いたような出来事をにあう。ここでは家族の連帯のモチーフが色濃い。父ジョンはラモーナの能力を知らずに結婚して、能力に驚き、受け入れられない。息子ビリーは母の教えを咀嚼しながらも、父を理解しようとする。父子の間はぎくしゃくしているが、信頼は失われない。父が町の男に襲撃されて、半病人になってからビリーは父の代わりを務めることになり、父の乗り越え(許しの気持ちになること)を果たす。
 第2部はビリーの自立。ドクター・ミラクルという興行師に誘われて、ゴースト・ショー(移動サーカスのだしもののひとつ)のスタッフになり、数か月親元を離れる。労働で賃金を得、ショー仲間の女の子(年上)に惹かれ、誘惑され、愛と性を体験する。「シェイプ・チェンジャー」の2度目の襲撃。「オクトパス」と名付けられたアトラクション(回転軸からでたアームにゴンドラがつながっていて高速回転するやつ)で危機にあう。
 第3部は兄弟憎悪の克服。ビリーの出産には秘密があって、実は双子の兄がいた。様々な事情があって兄ウェインは養子にだされ、新興宗教教団の教祖の子供になっていた。彼はこどものときに、自動車にひかれた犬を救うという能力を発揮した。以来、教組の隣で「癒し人」となる。そのインチキをラモーナが暴き、ビリーと視線を交わしてから、ウェインはビリーを憎むようになる。高校卒業のころ教組は死に、ウェインは後を継ぐ。説教の録音を販売するためレコード会社を探しているころ(1968年ころの話)、メキシコの麻薬マフィアを関係ができてしまう。マフィアは教団の乗っ取りとウェインの治癒能力に目をつける。麻薬でイカれたウェインはビリーを見つけるように命じる。マフィアのボスらとメキシコ目指して飛行する途中、ウェインは自殺衝動を起こし、飛行機を墜落させる。生き残ったビリーとウェインの前に、「シェイプ・チェンジャー」が彼らを抹殺しようとする。重傷を負った二人はメキシコの砂漠で、「シェイプ・チェンジャー」が憑依した死体(ゾンビー)と対決することになる。
 表向きはこの世に悪と恐怖を蔓延させようとする「シェイプ・チェンジャー」との闘いが主題。それについてはもう一回触れることにして、ここでは家族の主題について。フィクションでは双子はしばしば鏡のように自己がそとに投影されているような描かれ方をする。好意的なときには言語の媒介なしで意思疎通ができるというスーパー・ネイチャーな存在にされ、悪意があれば善と悪に分裂されて己の鏡像すなわち自分自身との闘争になる。現実の双子がどうであるかは知らないが(このステロタイプは双子への偏見を助長するかもしれないので取り扱いは注意しよう)、ここではビリーの正義とウェインの悪の対立がある。ウェインの悪はメンターが不在で、自己の能力(あいにく母の見立てではその力はビリーよりも弱いものであった)を適切に育成できなかったことにある。それが独我論となり、自己の肥大と劣等感に至った。ウェインとビリーの違いは、メンターの存在に加えて、共同体の中で微温的な状況にあったか、共同体の間で孤独な単独者としてあったかによる。ウェインがようやく他者、自分と同じ言葉を共有しない人とであうのは砂漠で「シェイプ・チェンジャー」が初めて。その遭遇、出会いがウェインを変えるきっかけになった。その際に、ウェインが思い出したのは、悪夢の中でみていた「ワシとヘビの戦い」。ヘビが共同体に巣食う悪であるとすると、ワシは空を孤独に飛ぶ単独者であって、それが体現するのは複数の共同体が交換し合う「社会」の正義にほかならない。
(この主題と物語の構造は、当時大人気になった「スター・ウォーズ」3部作(エピソード4から6)と同じ。ルークの家族の葛藤や自己発見の旅は、ほとんどビリーに重なる。)

 

    

2019/03/28 ロバート・マキャモン「ミステリー・ウォーク 下」(福武書店・創元推理文庫)-2 1983年