odd_hatchの読書ノート

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デビッド・ギャレン編「マルコムX最後の証言」(扶桑社文庫)

 1992年スパイク・リー監督の映画「マルコムX」が評判だったのにあわせたのか、1993年に出版。原著は1992年初出。この本は3部構成で、人々の思い出を集めた回想録、生前のインタビュー7本、故人の人となりや評価からなっている。
 アレックス・ヘイリーが編集した「自伝」を読んだ2006年の感想は「この人の思想や行動に共感を覚えるのはなかなか難しい。20世紀前半から半ばまでのアメリカの問題を一身に集約した存在としてこの人は重要なのだろう。」なのだが、こちらを読んでも感想は変わらなかった。マルコムXの「白人は悪魔」「黒人は白人から分離すべき」「白人の差別にはあらゆる暴力で対抗(ただしマルコムXは暴力を行使する運動を組織していない)」などの主張になじめない、納得しがたいというのがあってね。一方で、この人の影響力には敬意(リスペクト)を持ちます。

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 この本の中では、マルコムXの「神話」について分析していて、この人が神話になったのは、困難にめげず成功したこと、予言者であったこと、途上で殉教したことをあげている。なるほど、牧師の子として生まれ、父は人種差別により殺害、成績優秀であるが底辺の仕事にしか就けずチンピラとなって逮捕収監、獄中で猛勉強しブラック・モスリムにふれて出獄後はスポークスマンとして活躍、アフリカの第三諸国で歓迎をうけ、40歳にならずして暗殺されるという波乱万丈の生涯。黒人をイスラム教に改宗させて分離ないしアフリカ回帰を目指す宗教活動において、白人を罵倒する。この主張はそれまで黒人がひそかに囁くようなものであったが、初めて世の中に向けて大声で語った。それが黒人の熱狂的な支持になる。弁舌の才に恵まれていて、さまざまな討論・ディベートで白人論者に勝利した。社会から注目を浴びる存在であるので、身辺はきわめて謹厳であって、女性・酒・ドラッグを避けて、仕事に熱中する。いつでもエネルギッシュ。まあ、カリスマであったわけだ。
(同時期に消費者運動を進めていたラルフ・ネーダーも禁欲的でエネルギッシュな活動をしていて、カリスマ的な人気を持っていた。)
 では、彼の運動の成果はというと、心もとない。最初はモスリムの主張を代弁していたが、メッカを訪れ「白人」のイスラム教徒をみて分離主義から多民族主義に変わろうとしたり、共産主義思想を取り入れようとしたり、遍歴と迷いの途中で倒れた。そのために主著はないし、周辺の人々の証言を突き合わせても主張は明確ではない。出獄後に参加したNOIネーション・オブ・イスラム)から脱会した後、自分の組織をつくろうとしたが、中途で凶弾に倒れたので、彼を継ぐ組織はない。予定していた計画もキャンセルされる。マーティン・ルーサー・キング牧師を非難するなどして、公民権運動には距離を置いていたから、そこへの影響力はない(1963年のワシントン大行進にマルコムXは不参加、というのはここで初めて知った)。
 彼がなにをしたかではなくて、どのような人であったのか。そちらの方が重要なのだろう。実際、自伝やこの本で生涯を追いかけると、アメリカの人種差別の根深さが痛いほどに理解できる。その存在が時代を象徴していて、しかし業績や成果がほぼ皆無なために、のちの人はいろいろな意味付けをできる。そういう人。


 人種差別や排外主義の克服はまた別の資料で勉強することにしよう。たぶん、おれの中には差別に鈍感なところがあって、ちゃんとつかんでいないところが多々あるはずだから。
参考エントリー:
2011/12/09 アレックス・ヘイリー「マルコムX自伝」(河出書房新社)