odd_hatchの読書ノート

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アレックス・ヘイリー「マルコムX自伝」(河出書房新社)

 革命家、しかも途中で挫折した革命家には、奇妙なことに人気があって、定期的にリバイバルされる。数年前(2000年)にはチェ・ゲバラの青春を描いた映画「「モーターサイクル・ダイアリーズ」が公開され、その10年前にはスパイク・リー監督による「マルコム・X」が作られた。いずれはこの波がトロツキー朱徳田中正造あたりにまで続くことを期待したい。もちろん人気者や流行者には背を向けるものの常として、どちらの映画も数年後になってようやく気付くのだが、「マルコムX」については、没後すぐに作られたドキュメンタリー映画がTV(なんとフジテレビ)で放送された(1989年と記憶する)。前半は録画を取っていた。映画のもとになったのは、この自伝。2002年には中公文庫で上下2巻の文庫本として再刊されている。
 マルコムX。1925年、アメリカ・ディープサウスの牧師の息子として生まれる。10歳になる前に、父が事故死(黒人差別撤廃を伝道していたために白人の恨みを買っていたという。鉄道にはねられた状態で発見されたが、他殺という疑いもあった)。母は発狂、兄弟たちは親戚の家などにばらばらになった。学校教育期間中は優等生で、弁護士になることを希望していたが、教師に一蹴される。白人社会に幻滅、15歳に靴磨きの仕事に就き、周囲の悪がきにあこがれ、ニューヨーク・ハーレムに行き「ハスラー」になる。ドラッグの売人であり、ギャンブラーであり、白人女のヒモというわけだ。21歳で逮捕され、監獄に収容される。(このような生い立ちは同世代のアフリカン・アメリカンと共通したところがある。)佐山和夫「黒人野球のヒーローたち」(中公新書
 ここで、他の囚人からモハメッド・イライジャ師の言葉を知る。彼はイスラム教の導師であり、白人を悪魔と呼ぶ熱烈な差別撤廃運動者だった。少年はここで改心し、イスラム教徒に改宗する。そして、膨大な読書(入所したころ彼はほとんど正式なスペルを知らなかった。辞書を筆写することから初めて、毎日15時間も読書をしたという。アメリカとアフリカの歴史を学び、古今の哲学者の著作を読んだ。ここに永山則夫との共通点とみるかな。)を行い、同時に他の囚人への伝道を始める。「マルコムX」は当時イライジャ師に付けられた名前。「X」は彼の祖先であるアフリカの家族の姓をあらわす。もはや知ることのできないため、「X」というなんでもありえ、なんにもなりえないゼロ地点の記号で表すしかない。この名前を衆人にさらすというのは、自らの決心が揺らぐものではない、さらには差別する社会への闘争を続けるという決意を示すことになる。
 イライジャ師とともに全米を行脚。その卓越した弁舌によって彼の後継者と噂される。その後をシンプルにまとめると、イライジャ師の私生活の問題を知り、彼と決別。メッカに巡礼し、現地のイスラム教を知る。ここで初めて差別されない場所を知ることになる。このあたりの描写や彼の感想が印象的だった。イライジャ師の教団NOIと決別したことにより、彼らから暗殺の対象になる。そして1965年、スピーチの最中に凶弾に倒れる。
 この人の思想や行動に共感を覚えるのはなかなか難しい。20世紀前半から半ばまでのアメリカの問題を一身に集約した存在としてこの人は重要なのだろう。