odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-2 20世紀の黒人差別と公民権運動。差別撤廃の法ができても、ヘイトクライムの標的になっている。

2022/03/22 本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-1 1990年の続き

 

 後半は20世紀。白人側から見たアメリカの近代史と重ねることが必要。参考エントリーは以下。
2020/10/12 有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書) 2002年
2020/10/09 有賀夏紀「アメリカの20世紀 下」(中公新書) 2002年
 アメリカは繁栄していた。謳歌していた白人たちはどのような行動性向であったかを分析した者があるので参考になる。
2015/05/11 ジョン・ガルブレイス「ゆたかな社会」(岩波現代文庫)-1
2015/05/12 ジョン・ガルブレイス「ゆたかな社会」(岩波現代文庫)-2
2011/12/18 ジョン・ガルブレイス「満足の文化」(新潮文庫)

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7 近代黒人解放運動 ・・・ 20世紀初頭からWW2まで。ジム・クロウ法に代表される黒人差別制度ができていた。路上では白人による差別があり、KKKなどの差別集団によるリンチがあった(黒人だけでなくアジア系、ネイティブにも差別は及んだ)。黒人による人種差別撤廃運動もあった。ブッカー・T・ワシントンとW.E.B.デュボイスが重要。
(「ブッカー・T」がアフリカ系で重要な名前らしいのは知っていたが(ソウルミュージシャンやプロレスラーなど)、由来を知ってびっくり。差別、リンチ、その他の迫害をなしにするわけではないが、この時代のブラックエンターテインメントはすばらしいし、おもしろい。ジャズからゴスペルから映画からいろいろ。ネットでみよう。)
2011/03/25 佐山和夫「黒人野球のヒーローたち」(中公新書)
(戦前の黒人差別の証言)
2011/12/09 アレックス・ヘイリー「マルコムX自伝」(河出書房新社)

8 公民権闘争の開幕 ・・・ WW2から1959年まで。WW2の動員で人種差別は不効率不公正であったので、1941年に軍の人種差別撤廃令がでる。以後、民間・公で差別禁止の法律ができる。しかし実態は改善されない。黒人は選挙権、教育、公共サービスなどの公正平等を求める運動を開始する。成功例はモントゴメリーのバスボイコット運動。白人による差別の象徴的な事件として、1955年ローザ・パークスのバス降車拒否と1957年のリトルロック高での黒人入学。
公民権運動でさまざまな入口の人種差別はなくなっていったが、今度は入ってから後の陰湿な差別や嫌がらせが問題になる。ローザ他の個人の英雄的な振る舞いが注目されるが、彼ら彼女らの背後には無名の多数の支援者や協力者がいた。)

9 黒人革命 ・・・ 1960年代。人種差別撤廃、公民権確立の運動。非暴力不服従(それは必然的に逮捕を伴う)。トピックは、1960年ランチ・カウンター座り込み。1961年フリーダムライド。1963年ワシントン大行進。1966年ストークリー・カーマイケル「ブラック・パワー」。1968年キング牧師暗殺。その間に、白人レイシストによる暴力、リンチ、テロ、暗殺などがあり、死傷者が多数でた。とくに南部の州知事や警察による差別扇動と権力の濫用で逮捕者が多数でた。
 当時のアメリカの人種差別をレポートした本。
2011/12/10 ネリン・ガン/グリフィン他「ダラスの赤いバラ・わたしのように黒く」(筑摩書房)
2011/12/11 本多勝一「アメリカ合州国」(朝日新聞社)

10 アメリカ黒人の現在 ・・・ 1970年以降1990年まで。公的な差別が法律で禁止された。アファーマティブアクションも制度化される。黒人の政治進出が増える(市長や知事になる)。しかし、黒人全体の経済、健康、居住は依然として低く、貧困と失業は大きな問題になっている。黒人問題は未解決。

 

 1990年に未解決の黒人問題は、21世紀になっても未解決。10年代に白人警官による黒人男性暴行死からブラック・リブス・マター運動が起きた。過去1世紀以上の反差別運動があってもなお、差別行為がありヘイトクライムの被害者がいる。
 さらに問題をややこしくするのは、アメリカの人口構成が変化して、ヒスパニックやアジア系などがあらたなマイノリティとして現れていること。ときにアジア系は高学歴のものが移住・移民して高給の職業に就くことがあり、やっかみの対象になることがある。そのために黒人などのエスニックマイノリティが別のマイノリティにヘイトクライムを働くことがある。#StopAsianHateというタグで反差別のアピールが行われているくらいな状況(2021/5/21には「ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は21日、アジア系​に対するヘイトクライム憎悪犯罪)対策法案に署名し、同法が成立した。」
https://www.afpbb.com/articles/-/3347751
 黒人差別撤廃の運動の歴史と成果をみて、包括的な差別撤廃の運動にアップデートしないといけない。