odd_hatchの読書ノート

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藤田弘夫/西原和久編「権力から読みとく現代人の社会学・入門(増補版)」(有斐閣アルマ)-2 メディア、教育、民族と宗教等に見られる権力と差別について。

2020/10/26 藤田弘夫/西原和久編「権力から読みとく現代人の社会学・入門(増補版)」(有斐閣アルマ)-1 2000年の続き

 

 大学の参考書であれば、講義内容と合わせてもっと詳しいメモを取るべきであろうが、学生ではないのでエッセンスだけにした。勉強している若者はきちんとメモをとり、参考文献を読んで補完しよう。できれば、どれかの章の自分のテーマにして深堀りするのがよいと思う(例えば、俺は学生時代に公害-環境問題の本を集中的に読んだ)。

 

第III部 文化と権力
第9章 メディアと人間=干川剛史 ・・・ 情報量の差が政治的・経済的優劣をつける。新しいメディアとしてコンピューターネットワークがある。特徴はボランタリーな自発的なメディアで、情報格差を生みやすい。個人情報の蓄積で個人管理が容易。現代の政治の問題は官・産・政の説明責任の放棄と市民の受動的政治参加。これを埋めるのがメディアの役目。
(1998-9年ころの認識。ネットメディアの問題は私企業のサービスなので、私企業(とくにグローバル企業)が国の規制に従わなかったり、政権擁護の運営をすること。メディアと国に求められるのは、個人情報保護と公的情報開示とされているが、加えてヘイトスピーチの禁止があるべき。いずれもこの国では行われていない。2010年代の安倍政権では官邸と首相がメディアを統制し、悪質な政権擁護報道が行われている。)

第10章 教育と権力=佐藤富雄 ・・・ 教育は近代社会になって社会からの要請で、自発的に従属を生み出すメカニズムとして機能してきた。生徒-教師の力関係、学校-社会・国家の権力関係。教師は生徒に権力をふるえると同時に、社会や国家の権力に統制されている。(教育にみられる権力はこの小論だけでは不足なので、サマリーはここまで。勉強したほうがいいのだろうが、ちょっと手が回らないなあ。)

第11章 言語と人間=藤田弘夫 ・・・ 文字は古代から権力の道具として使用されていた。特権階級が独占していた。一方世界共通語として各地の交通を可能にしてきた。近代の国民国家は、言語を世界共通語から民衆語に変更し、産業の要請で国民の識字率をあげてきた。ナショナリズムの成立と、周辺国との断絶が進む。帝国主義で獲得した植民地には宗主国の言語を強要し、20世紀の独立後の言語の混乱=社会の混乱となっている。(日本人は日本語でほぼ用が足りるので、外国語習得がへたくそ。欧米語を優位にして劣等感をもち、元植民地や占領地の言語には差別的感情をもつ。アジア人に対する偏見や差別を助長する理由のひとつ。)

第12章 民族と宗教=新原道信 ・・・ 国民国家をつくるにはナショナルアイデンティティを作って統合を図る必要がある。これは境界をつくり、内と外を厳しく区別する。この国では単一民族国家、農業国家などのナショナルアイデンティティがあるがどうもそれは近代に作られた幻想。日本社会と日本人の見直しが必要。(たとえば網野義彦「日本社会の歴史」「日本の歴史をよみなおす」などが参考になるとのこと。民族差別はここではスルーされているが、911以降、宗教差別によるヘイトスピーチヘイトクライムが起きている。これからの重大問題。)

第13章 環境と人間=池田寛二 ・・・ 公害が国家的・国際的に問題になった1960から四半世紀の1996年には「環境問題」として政治学社会学の課題になった。過去を知る者には隔世の感。さて、環境問題は利害の異なる様々な人々・集団の思惑が錯綜し、市場システムや技術開発だけでは解決しようがなく、国家が介入するだけではなく市民が政治参加しないといけないやっかいな問題なのである。差別、経済格差、環境難民などの派生する問題にも注意深くなること。最近のキーワードは持続可能な発展(SDGs)。

第14章 時間と人間=藤田弘夫・竹内治彦 ・・・ 権力は時間を分節化し他者支配の道具として用いる。産業化によって権力の時間を社会制度が採り入れ、労働の管理に使われるようになった。単純作業の長時間労働を嫌う労働者は自由時間獲得のために、労働時間短縮の運動をしている。(工場労働者やマニュアルに基づく労働をするものは労働は苦役と感じる。ではそれ以外の職業・役職ではどうか?)

第IV部 さまざまな権力理論
第15章 権力のイマージュ=西原和久 ・・・ 社会学者はいかに権力をとらえてきたか。ウェーバーマルクスレーニンアドルノ-ホルクハイマー、フロム、フーコーパーソンズ、ミルズ、ルーマン

第16章 フーコーの権力論=佐野正彦 ・・・ フーコーの権力論。この小さな章を読むより、「フーコー入門」のようなタイトルの新書で。
 エンタメで読んだフーコーの権力論
笠井潔「オイディプス症候群」(光文社)-3

第17章 権力なんかこわくない=永田えり子 ・・・ 個人主義的な見方からすると、権力者-複縦者は等価値の交換を行っている対等な関係。なので権力は見えなくなる。最近は、強制・搾取から主体性・自己責任で権力を理解しようとするようになった。

特論1 ジェンダーと権力=吉澤夏子 ・・・ ジェンダーの権力は歴史的・社会的・文化的に構成される不可視の権力(超・権力)。規律訓育的につくられる。完成しないし固定しない。拘束力を過大評価しない。

特論2 差別と日常=好井裕明 ・・・ マジョリティは差別を差別者-被害者に二分し、自分はどちらでもない第三者(傍観者)と規定し、「あたりまえ」「普通の人」としてふるまう。そして権力関係をみえなくし、「差別する私」の存在を消そうとする。しかし、日常や普通、あたりまえはもろく、ときに「差別する私」が現れる。そこで「差別する私」は差別者になにができるか。(あえて差別被害者に何ができるかという問いは立てない。そこでは差別被害者に寄り添う無邪気な「差別する私」による差別構造が現れるから)。

 

 

 1990年代では、ここに掲げられた社会問題は危機の可能性のようにとらえていたものだけど(最終章のように「普通の」「あたりまえの」に安住していたのだろうが)、21世紀にはどれも深刻な対立と格差と差別を産む問題になってしまった。最新の情報を得て、これらの問題を考えることが大事。(全部やろうとすると大変なので、何かひとつ深堀りする問題を見つけるほうがよい)

 

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