odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

斉藤貴男「安心のファシズム」(岩波新書) 日本にファシズムが起こりつつあるとみた、2004年の論集。自己責任論と自由からの逃走をファシズム団体は利用する。

 日本にファシズムが起こりつつあるとみた、2004年の論集。これを2020年から振り返るように読む。

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第1章 イラク人質事件と銃後の思想 ・・・ イランで起きた日本人人質事件。このとき、政府は自己責任論で放置し、民衆は人質と被害者家族をバッシングした。同じころに部落差別事件も頻繁に発生。石原慎太郎上坂冬子らの極右言論人が台頭し、安倍晋三改憲を主張する。
(通常ネトウヨの発生は2002年の日韓WCサッカーを契機とみるが、わずか1-2年でこんなに蔓延していた。このときは対処法が見当たらなかったが、反差別の運動でわかったのは、バッシングやヘイトスピーチをしたらすぐに叱り大騒ぎにすることが大切だということ。燃え尽きるまで炎上させるのが有効。あと自己責任は金融・株式・投資などに使われる経済の自由から派生するもの。責任をとるには情報の開示があって、当事者に情報の非対称性がないことが前提。それ以外の領域で自己責任を問うてはいけない。)

第2章 自動改札機と携帯電話 ・・・ 巨大なシステムに操られ、そのことに抵抗しない人間たち。

第3章 自由からの逃走 ・・・ フロムの本はファシズムへの対抗のための論理であるが、自民党は国民統制のための詭弁に「自由からの逃走」を使う。すなわち国民は自由から逃走する欲望があるから、国家が国民の生き方を規定しよういうもの。現われは、憲法改正、国歌国旗強要、道徳教育など。
(このあたりは第2次安倍内閣から顕著になった印象があるが、20年前からあったのだね。あと自民党の班立憲主義、反民主主義をマスコミが報道しなくなった事例がこのころからある。)
第4章 監視カメラの心理学 ・・・ 監視カメラが防犯カメラという名目で設置が進む。治安目的であるが、政治・公安警察に最も役立つ。国家は国民を犯罪者とみなし、自由を与えなければ罪を犯さないと考えているので。監視カメラの設置は商店街・自治会・企業などの下からの要望で設置されていく(のは「御真影」普及の過程と同じ(多木浩二「天皇の肖像」(岩波新書))。
(監視カメラに慣れると、国民の萎縮と国家への服従が強化される。)

2014/02/13 東野圭吾「プラチナデータ」(幻冬舎文庫)

第5章 社会ダーウィニズム服従の論理 ・・・ グローバル化で広がる「新自由主義ネオリベラリズム)」は、市場経済で企業が経済活動をする自由を最大化するもので(なので規制緩和)、個人の権力からのand/orへの自由は市場経済の邪魔になるから、監視と排除を強化する。小さな国家を標榜する「新自由主義」は警察機能を強めるので大きな国家になる。警察機能はハイテクノロジーとビジネスと結びつく。社会ダーウィニズム新自由主義の正当性を根拠づける思想になる。これは日本の武士道と親和的。弱者の存在を認めるので、排除と差別を広げることにつながる。
(本書の白眉。ほかは流し読みでいいが、この章は熟読が必要。民衆にみられる「自由からの逃走」は自発的な欲望ではなく、社会・環境に適応する中で学習した行動パターンとみなすべき。自発的とすると、叱責や嘆きをする理由になってしまう。あと、よく目にする「南鮮」という侮蔑語は小説「バトル・ロワイヤル」由来らしい。)

第6章 安心のファシズム ・・・ ウンベルト・エーコが「永遠のファシズム」で14の項目をあげているが、2004年の日本はすべてにあてはまっている。

初期ファシズム、14の兆候/米博物館に掲示/「安倍政治とそっくり」との声も - 連合通信社
ポピュリズムの政治家、子ブッシュと小泉の特徴は、非論理的・反知性・ナルシズム・情動的で短い言葉など。これって、トランプや安倍晋三菅義偉にも、小泉進次郎にも小池百合子にも共通。)

 ファシズムってなあに?|離乳食から始める政治|note

 「安心のファシズム」は2015年の安保法制あたりから強化されたのかと思っていたが、21世紀の始まりにはあったのだった(さらに古くは1960年代の教科書検定などにさかのぼれるだろう)。歴史の転倒が起きるのは、自民党が野党になった二回の政権交代で、自民党の力が弱まったという印象を持ったからだろう。
安倍晋三竹中平蔵麻生太郎のような新自由主義新保守主義の議員が2004年にすでに活躍していた。彼らが実権を握ったのが2010年代。)
 それ以来、ファシズムは強化されたのかというと、必ずしもそうではないと思う。大きな変化は、311以後に街頭の市民運動が起きるようになって、政府の法案や提案を実質的に骨抜きにしていること。SNSを使って、抗議を可視化できるようになったこと。2020年5月には、検察庁法改正案に反対するツイッターが多数投稿されたので(500万件以上)、成立が見送られた。いろいろな対抗方法ができて、ある程度の抑止効果が出ている。

dot.asahi.com

 もちろんファシズムへの力は強いし、仕事でファシズム化を進める者がいるのに、市民は仕事と活動を両立しないといけないという差がある。なかなか困難ではあるが、できることをやっていきましょう。