odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

藤田弘夫/西原和久編「権力から読みとく現代人の社会学・入門(増補版)」(有斐閣アルマ)-1 社会学のおもなテーマは「権力とは何か」。どこにでもある権力を分析。

  社会学の大学教養課程の参考書を読む。社会学のおもなテーマは「権力とは何か」だそうで、さまざまな権力の分析をまとめている。本書は1996年初版で、2000年に増補版が出た。読んだのは増補版。

 

第I部 人間に潜む権力
第1章 権力と社会=藤田弘夫 ・・・ 人間がより充実した生活を営むために必要な人的・物的リソースが不足しているとき、抵抗を排しても意思を貫徹する可能性が必要になる。そこに権力が生まれる。権力には保障と支配の相反する特徴があり、最大の保障と最小の支配を望むが権力はどちらも最大にしようとする(2010年代の安倍政権をみると保障を最小にしようとしている)。権力は多様な形態をもつが、事件や問題を通して直面する。(そうでないときは権力は見えない。支配に慣れすぎても見えない。)

第2章 行為と権力=西原和久 ・・・ 権力の表れのひとつが暴力。支配する側の正当性と支配される側の服従の関係がある。これが崩れると権力に従わなかったり、抵抗したり。

第II部 社会と権力
第3章 家族と育児=竹村祥子 ・・・ 家庭も権力機構。家父長制による性別役割分業は、とくに女性、妻、母親への抑圧がある。シャドウ・ワーク、就業条件の差別、母親カテゴリーの特権化、「科学的根拠」による抑圧、国家の介入など。(本書は2000年の増補版なので、20年後にはさらに状態は悪化。とくに専業主婦が減ってこと、シングルマザーの増加で社会と家庭での女性抑圧は強まっている。)

第4章 地域と生活=三本松政之 ・・・ 同質性を求める社会、能力主義を掲げる社会が弱者を排除するようになり、ヘイトクライムを起こす。弱者はマイナスイメージをもたされる。たとえば、貧困者、老人、身障者、精神病患者、犯罪者、親のない子、母子家庭、福祉施設など。(これも日本全体が貧困化している21世紀には悪化。政治家と行政が差別はダメと言わないと、ヘイトクライムはとめられない。あと日高六郎の「凝集と緊張」という分析が同質性を求め弱者や異質を排除する社会の理解に役立つ。)
樋口陽一「リベラル・デモクラシーの現在」(岩波新書) 2019年

第5章 政治と自治=早川洋行 ・・・ この国の住民は地域政治の参加が疎外されている。長時間・遠距離労働、ジェンダー差別、政党や政治家からの疎外、若者の政治参加の排除、高齢者になるまで政治参加の自由を得られないなど。観客民主主義から参加民主主義へ。(2010年代の新しい政治参加はSNSを通じてイシューごとに地域や職場に関係ない人が集まるやりかた。可能性があると同時に、地域に根付かないので長続きしない/拡大しないという問題もある。)

第6章 都市と農村=藤田弘夫 ・・・ 都市は農耕社会を秩序付けるために、権力が創った。人と物の統合機関であり、統合がうまくいく都市は存続する。疫病(公害)、災害、水・食料などで統合できなくなると年は解体する。日本の都市問題は、都市計画不在で物的施設の建設の規制が緩いこと(なので都市機能が効率的でない)と異常な地価。
(1996年の記述で「日本は世界で最も豊かな国民」「未曽有の繁栄」とある。たった四半世紀でこの自己評価は崩れた。)

第7章 企業と仕事=鈴木秀一 ・・・ 近世の仕事と近代の労働の違い。近世までは共同体エートスとクラフト的熟練があった。近代の大量生産体制はこれを解体し、現代的経営と競争する個人に組織化。組織と技術的効率のために人間労働は配置される。近世までの仕事が持っていた人格性と代替不可能性がなくなり、熟練を要しない労働は外的にも内的にも意味がないように感じる。とはいえ、現代の労働の信頼システムでも、人間的信頼や倫理はあるのであって、経営には配慮が必要。

第8章 公共と福祉=竹内治彦 ・・・ 保障とは、権力や制度が困窮者に与える支援。(この章は東西ドイツ統一の事例を詳しく紹介しているので、内容に乏しい。そこで下記で補完。
橘木俊詔「企業福祉の終焉」(中公新書)
広井良典「日本の社会保障」(岩波新書)
作中に平成11年1998年の入社二年目サラリーマンの平均給与は226,900円に計算されるといっている。これは2020年の同条件の人と比べるとどうなるか。)

 

 2000年の増補版でも、事例は古い。21世紀にはユートピア的と思われる記述になっている。
 1990年代にはまだ「日本は優秀」「日本型システムは未来の先取り」のような論調が残っていた。しかし平成の長い不況と繰り返される自然災害(に対する対処と復興の遅れ)は、優れた日本というイメージが幻想であったことをあきらかにした。すでに昭和の経済成長や技術革新の力はないし、日本型経営システムは不効率と不平等の象徴のようである。経済や科学技術を誇れないようになると、今度は日本民族や土地が優れているというイメージを使うようになったが、これも内には同質性を強制し外には排外と差別を行う偏狭さがあきらかになっただけ。このエントリーに取り上げられた日本の権力はどこのシーンでもぼろぼろになっている。

 

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2020/10/23 藤田弘夫/西原和久編「権力から読みとく現代人の社会学・入門(増補版)」(有斐閣アルマ)-2 2000年