2022/03/30 深井智朗「プロテスタンティズム」(中公新書)-1 2017年の続き
以降の章は、18世紀以降。もの凄く駆け足。中心になる地域は、ドイツとアメリカ。とても大雑把に言うと、ドイツは北部のプロテスタントに南部のカソリックがあり、周辺にはカソリックのオーストリアやポーランド、プロテスタントのルクセンブルグ諸国があるなど、かならずしも宗教がひとつであるわけではない。下記にあるように教区があって、そこには国営教会がある。
第6章 保守主義としてのプロテスタンティズム ・・・ 古プロテスタンティズムの代表としてルター派を見る。ルター派の教会は国家と協力関係にあり、地域共同体と深く結びついていた(ドイツでは生まれた家の宗教に入り教会に行くので)。プロイセン主導でドイツが統一されることに、国家との協力体制が作られる。フランス革命以前にルターがカソリックからの自由を樹立し近代的な自由を獲得したという歴史解釈を作って、ドイツ人のナショナルアイデンティティを作る働きをした(そこにはカソリックのオーストリアを排除した経緯があり、その合理的な説明が必要とされた)。WW1でも、ドイツの戦争はプロテスタントvsカソリック、ロシア正教という図式を作って戦争支援に動いた。ワイマール共和国時代には不遇であったが、ナチスには親和的で沈黙していた。戦後は、ナチスの反省から他文化共生社会の政策を支援するようになる。ドイツの伝統を保守するのであるが、排他主義には否とする立場をとっている。しかし21世紀にはドイツナショナリズム(むしろ愛国主義)の受け皿になっているところもある。またドイツでは大統領は司祭のような役割を期待されていて、演説はしばしば牧師の説教のような宗教性を感じられるとのこと。
<参考エントリー> 現在ドイツの状況。ここでは宗教の影響は書かれていない。
2020/10/02 三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-1 2006年
2020/10/01 三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-2 2006年
第7章 リベラリズムとしてのプロテスタンティズム ・・・ ドイツで多数派になったルター派は改革をさらに進めようとする洗礼主義などのグループを迫害する。宗教の伝統や従来の考え方を破壊して、主体的な参加を重視するこのグループはドイツでは主流にならなかったが、主にアングロサクソン系社会では勢力をえることができた。とくにアメリカにおいて。最初にアメリカに移民したのはピューリタンと呼ばれる新プロテスタンティズムの人たち(多数の宗派が参加)。アメリカには行政区や国営教会がなく、すべて移民者が自分で作るものだったので新プロテスタンティズムとの相性がよかった。とはいえ長老会やルター派のほうが勢力が強かったのだが、アメリカ独立戦争と建国では新プロテスタンティズムの人が政治的指導者に多かった。そのために憲法の理念に反映される。重要なのは、宗教・信仰の自由と小さな政府。自由主義や個人主義、宗教と経済の自由が国の理念になる。自発的結社を作り、宗教と政治に積極的に関与していく。一方、国家や政府は嫌いであり、国による宗教の独占には反対し、解放されるように要求した。このような精神は資本主義の成長に寄与する。
(アメリカの共和主義がフランスのそれとは異なることを説明しているとみた。フランスは王政や封建制から解放されるために政治参加の自由を獲得する運動から共和主義になった(ほかにも要因は多々ある)が、アメリカは植民者を統治する大きな権力がなかったので共同体形成の過程で社会参加のルールが形成されてきた。もともと多民族・多文化・多言語の集団だったので、どこかが権力を取ることが難しかったのだろうなあとも妄想。)
2019/07/08 トーマス・ペイン「コモン・センス 他三篇」(岩波文庫) 1776年
2020/10/15 渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-1 2010年
2020/10/13 渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-2 2010年
2020/10/12 有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書) 2002年
2020/10/09 有賀夏紀「アメリカの20世紀 下」(中公新書) 2002年
渡辺靖「アメリカン・デモクラシーの逆説」(岩波新書)
終章 未完のプロジェクトとして ・・・ プロテスタンティズムの精髄は「自分自身に拘束されない」という自己批判と自己相対化の原理。そのために、アメリカではプロテスタンティズムの系譜で新しいグループがどんどん生まれている。それらが社会に許容されるのは、プロテスタンティズムとリベラリズムが持っている価値の多元化、異なる宗派の併存が共有されているため。
(価値の多元化を認めるとは言っても、聖書主義が極端になると、進化論や中絶を攻撃したり、身体パーツの商品化が進むなど別の問題を起こしてもいる。)
プロテスタンティズムといっても分派しやすい(聖書解釈の権威を持たない)ので、バチカンやモスクワのような中心を持っているわけではない。プロテスタンティズム内部でも抗争や敵対があるようだ。なので、本書は教義ではなく集団の性格で定義しようとしている。この辺の事情は日本ではよくわからないので、本書のまとめは参考になる。
もちろんドイツやアメリカ、イギリスの政治がプロテスタンティズムで運営されているとみなすのは危険。国の運営は憲法が規定していて、憲法の条文にプロテスタンティズムから生まれたリベラリズムが濃厚に反映していると考えるべきだろう。
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