odd_hatchの読書ノート

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埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「序」

2021/07/12 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)ガイド 1946年の続き

 「序」で、「死霊」の方法と物語の構想が語られる。

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序(1948.10) ・・・ 一つの形而上学でもある観念小説。方法は「極端化と暖昧化と神秘化」「als obの濫用、反覆の濫用、或る期間までの心理描写の省略、探偵小説的構成等々々」
 方法は「文学論集」に収められた別論文なども併せて参照しておきたい。埴谷雄高「意識・革命・宇宙」(河出書房)も参考になる。

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 構成は以下のことを念頭に置いておけばよい。
 物語は、三輪家の葬儀のある日から五日間のできごと。章を繰るごとに時間が過ぎていく(ただし説明なしで過去の回想に入るので、時間経過には十分に注意深くなろう)。おおよその時刻をサマリ―に書いているので参考に。主な登場人物と登場する章は以下の表を参考に。
 主な舞台と席次は以下の表を参考に。誰がどこにいて、隣にだれがいたかは克明に書かれるので、メモを取りながら読む。

人物相関図

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第六章 《愁いの王》

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第九章《虚體》論―大宇宙の夢

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 ただ、この構想は達成されなかった。現存の最終章の第9章は三日目の午後にあたる。なので、序に書かれた釈迦と大雄の対話は行われていない。そのうえ、昭和23年までに書かれた第4章までの構想も中途半端になった。たとえば首猛夫による津田康造への「宣戦布告」の行く末、第9章で黒川建吉の持ち込んだ荷物の正体、「ねんね」を守る「筒袖の拳坊」と「ねんね」を狙う「一人狼」、などは結末を迎えない。

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 一方、与志が第一章で口にした「虚体」の観念は次第に関係者に伝搬して、それぞれがそれぞれの意味をもって語るようになる。クライマックスは第七章「最後の審判」の長い長い寓話。それこそ「大審問官@カラマーゾフの兄弟」に比べられるような、緊迫感を持った観念小説が描かれる。長い長い複数の語りをへて「虚体」が開示されるまでがこの小説の重要な物語。上の登場人物に関する物語は多少は「探偵小説的構成」であるともいえるが、実は「虚体」の謎を解くことこそ「探偵小説的構成」なのである。そのあとの章での「虚体」の説明は繰り返しになり、「虚体」暴きという主人公を追いかけ解明する物語は完結している。
 このように物語は未完であるが、テーマは完結している。
 五日間(読者の前にあるのは三日目午後まで)の小説で、登場人物は変化しない。現れた時から自己完結した人格や行動性向をもっていて、他人との語らいで変化することはない。反駁したり揶揄したり沈黙で答えたりと、自己は同じままなのだ。唯一の例外は与志の許嫁の安寿子。第二章では与志のことが「解らない」といっていた彼女は、幾多の議論や経験をへて、最終章の第九章において

「与志さんの、虚体です!/と、さっと頬全体に紅い帯を刷かせながら、津田安寿子は鋭く叫んだ(P403)」

と与志を肯定し受け入れるまでにいたる。そのような自己変容を果たしたということで、この小説の主人公は安寿子であるともいえる。

     

    

 

2021/07/08 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第一章 癲狂院にて」 1948年に続く