odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

中谷功治「ビザンツ帝国」(中公新書)

 井上浩一「生き残った帝国ビザンチン」(講談社現代新書)1990年を最近よんだときに、

以上のサマリーはあまりにヨーロッパ中心的な見方で、これではギリシャ・ローマの伝統文化をヨーロッパ
に伝達する中継者という役割に限定している。それはよろしくないわけで、皇帝や部下個々人がやったことや、経済改革などの独自性にも注目するべきだろう。それはまた別の本などで。

と感想を書いた。井上著から30年後に書かれた本書を読んでも、ふたたび上の感想を繰り返してしまうのは情けない限り。中国の歴史本を読んでもそうなるのだが、皇帝の入れ替わりや内乱・遠征・戦争の話を続けて読むのは苦痛。皇帝の名前も反逆者の名前も覚えられないし。
 西洋中心主義になりかねないが、本書は
増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)-1
増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)-2
と一緒に読んだほうが良い。増田のはゲルマン侵入と西ローマ帝国滅亡から十字軍のころまでのヨーロッパをみている。同じ年代の元東ローマ帝国ビザンツ帝国を見ているのが本書。すなわち、地中海の東と西を一度に見る視点を与える。

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 帝国は多民族と多言語と多宗教を抱えているが、拡張期には安定と繁栄をもたらす。しかし崩壊は早く、帝国後には民族間抗争を起こす。ビザンツ帝国もその例にもれない。なにしろ帝国が成立したあと、イスラムブルガリア、ラテンなどの諸民族が周囲に国家を成立させる。たいていは平和な交易があったと思うが、言語や宗教などの差異は紛争になり、皇帝の継承がこじれるとときに外国に支援を求めることがあり、帝国内の不和の種になる。ことにイスラムは融和と平和の宗教であったとしても、イコンの扱いではキリスト教と相いれず、互いに強硬になる側面もあったであろう。それよりも同じキリスト教のほうが手ごわいか。4世紀ころのニケーネ会議で東西の教会は分裂したのであるが、なんと1000年近くのちに、西方のキリスト教武装してやってくる。彼らの目的はイスラム制圧と神の国の建設であったとしても、現実に数万人の兵士と同数かそれ以上の家族がやってくるとなると、コンスタンティノーブルの十数万人の住民は恐れをなすであろう。西方の兵士の「正義」は、コンスタンティノーブルには「蛮族の大移動」にみえるわけだ。実際に、十字軍はこの都を目標にして、長い攻城戦ののちに都市を陥落させ、数日間の略奪をやってのけた。結果として、都市の陥落と略奪が帝国の終焉になった。
(その結果、学者と本が難を逃れて西に行き学問が栄えたのは、清から逃れた明の学者が日本に来て儒学を興隆させたのと同じ。)
 自分としては、東西の帝国(中国やインドなど)との違いや国民国家以前の民族性などを知りたくもあったが、また別の書との邂逅をまつしかない。