odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

青木理「日本会議の正体」(平凡社新書) エスノセントリズム=自民族優越主義。天皇中心主義。国民主権の否定。過剰なまでの国家重視と人権の軽視。政教分離の否定。

 2015年の反安保運動から日本会議と政府の関係が取りざたされるようになり、翌年に複数の親書が出た。先に読んだ山崎雅弘「日本会議 戦前回帰への情念」(集英社新書)はこの団体の復古思想の分析に頁を裂き、本書では日本会議の成り立ちと背景を詳しく説明する。著者は2015年当時の運動の中心人物にインタビューを行っている。それが収録されているが、この感想では立ち入らない。いくつか気になったのことをメモしよう。


・戦後の復古運動の中心に生長の家があった。谷口雅晴の「生命の実相」に感銘した議員や文化人が多数いて、運動の支援者になった。三島由紀夫鳩山一郎三木武夫中曽根康弘など。

生長の家は1980年代に政治運動からの撤退を表明。その後は、神社本庁が運動の中心になっている。全国に8万社以上ある神社のうち90%以上が神社本庁に加盟している。日本会議(とその前身)の政治運動に関与しているのは、当事者によると2-30%だそう。1945年の神道指令と翌年の天皇人間宣言にたいする復仇が彼らのモチベーションなのだろう。神社本庁(「庁」の名がつくが政府組織ではなく、民間団体)は神道議員連盟をつくりきわめて多数の国会議員が加盟している。安倍内閣のある時の閣僚のほぼ全員が神道議員連盟加盟者であったことも。日本会議加盟閣僚はそれより少ない。

日本会議(および前身組織)の運動目標は、憲法改正(緊急事態事項の追加)、家族の規定、教育基本法改正、外国人参政権反対、「自虐史観」脱却(歴史教科書改訂、政府所信の改変)、選択的夫婦別姓反対、女系天皇反対など。21世紀の人権(拡大)問題に保守は悉く反対しているが、日本会議神社本庁の考えの焼き直しとしてでてくる。
日本会議の運動は成功してばかりではなく、挫折も多い。改憲したい安倍晋三が首相でも、改憲発議すらできなかった。向こうの成功例ばかりでなく、挫折や失敗にも目を向けましょう。)

・そうなるのは、日本会議神社本庁は上からの政治力と下からの草の根運動を継続しているから。明治神宮などの金持ち神社が地方の経営者などが資金提供しているので、見た目が派手な運動ができている。そろいのジャケットやシャツを着るとか、幟をたくさん立てたりPAを積んだ街宣車を何台も使用するとか。日本の極右が真似しているが、見た目も動員力も日本会議にはかなわない。

安倍晋三内閣の時期に書かれた本なので、安倍晋三日本会議関係者の評価がのっている。

「深いものはない」
「知性を鍛え上げた様子も、政治史などの知識などを積上げた形跡も、ほとんど見られなかった(P239)」

まあ、そうだよね。

 まとめ

日本会議とその中枢、周辺にいる「宗教心」に駆動された宗教右派の政治思想は、そうした危うさ(神道指令を否定し、政教分離も踏みにじる、戦前回帰)を確実に秘めている。エスノセントリズム=自民族優越主義。天皇中心主義。国民主権の否定。過剰なまでの国家重視と人権の軽視。政教分離の否定。(略)「国家の祭祀」とされた戦前の国家神道の論理と相似形である(P245)」

 安倍晋三内閣で画策した改憲はつぶれたが、岸田文雄内閣がまたやろうとしている(2022年3月現在)。向こうの極右もしつこいので、こちらもしつこく潰していきましょう。あきらめや詠嘆は人に聞こえないところでやりましょう。極右はリベラルの嘆きを利用します。

 遠山美都男「天皇誕生」(中公新書)を読むと、神道はできたときから日本会議的なエスノセントリズムレイシズムの混じった宗教右派だった。「日本書紀」に書かれている周辺部族や国家の侵略と天皇をトップに置く新しい宗教の押し付けは大和朝廷の核心に他ならない。極右や宗教右派が復古したいのは戦前日本であるのはもちろん、明治政府であり、古代の天皇親政である。そこでは民は天皇に使えるための使い捨てであり、周辺民族の侵略と支配を行うのだ。