21世紀になって自民党政府の首相と内閣の多くは、日本会議と神道政治連盟所属者であり、政府の政策は日本会議の主張と一致している。ことに安倍晋三、菅義偉、岸田内閣とその閣僚は日本会議の制作を実現するように動いている。日本会議の目的は戦前(とくに1930年代の大政翼賛体制)の政治と思想体制を復活すること。
簡単にまとめると、このとおり。本書は、日本会議(および安倍政権)が発する「政策」・歴史否認・デマなどを糺す対抗テンプレの役割を果たしている。彼らの主張を網羅しているので、反論をする際の参考になります。
気づいたことをメモ
・1945年の敗戦で日本は主権を失い、国の政治の仕組みを変えた。しかしこれを受け入れらない勢力がった。そのひとつが国家神道団体。1945年の「神道指令」で彼らは政治から追放された。改革政策で1930年代の大政翼賛体制は全面的に否定され、排除された。それを政治的屈辱ととらえたものは、1952年に占領が解除されてからバックラッシュの運動を始める。
・当初は、生長の家、勝共連合、神社本庁などの宗教団体が運動の主。そこに学生右翼の運動から成長してきた団体などが加わり、1997年に日本会議が結成された。豊富な資金を持っていたと思われ、草の根の運動とメディアを使った情宣を行い、21世紀に小泉、小渕、安倍、麻生などの日本会議に関与する政治家を首相にする。
(生長の家はのちに離脱し、1983年から反自民の立場になる。現在は、日本会議と生長の家は関係ありません。)
・日本会議の主張は、1930年代の国体明徴運動で戦前に文部省などが出版した「国体の大義」「臣民の道」に書かれたことと一致する。国家神道による独裁体制を作ることであり、天皇のために死ぬことを人の生の目的とすること。でも歴史を見れば、国家神道や国体明徴運動などは、国の方針が定まらない時期(国際的孤立、経済低迷、政局の混乱など)につくられたもので、それを運用した結果、彼らが大事にする「国体」を破滅させたのだった(天皇の意向をしばしば無視し、嘘をつき、激怒させ、無条件降伏を選択させ、あまつさえマッカーサーに頭を下げる恥をかかせた)。その際に国民と植民地、占領地域、敵国人などを数千万人殺害するという世界的災厄を起こした。その事実を日本会議は受け入れない。日本の戦争犯罪を捏造とする歴史否認をして、「大東亜戦争」を肯定する。
・なので、日本会議のスローガンは「愛国心」「伝統の尊重」「宗教的情操」となる。そうすると彼らが敵視するのは、日本国憲法と教育基本法。この二つの法律の改正と関連する法の成立を目指す(成功したのは、国歌国旗などで、失敗したのは靖国護持)。教科書改訂で時々成功する。男系天皇にこだわるので、男女平等に反対し、家族制度の強化をもくろむ。
本書で触れられていないのは、日本会議や神道政治連盟が反共であるところ。くわえて攘夷思想もあるので、国内に差別があることを認めないし、差別撤廃や外国人の人権侵害などに関わらない。政権が人権擁護を表明しないので、21世紀の日本ではヘイトスピーチが社会に蔓延し、ヘイトクライムが行われるようになった。外国のレイシストが羨む国が日本会議の作った日本なのだ。
戦後日本は国家神道の影響を排除することで成立した国家なのだが、半世紀後のバックラッシュによってカルト宗教が政権を牛耳る国家に成り下がってしまっている。その結果、国民の命は軽くなり、国家は守ろうとしなくなった。
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〈参考エントリー〉
2020/10/20 伊藤真「憲法問題」(PHP新書) 2013年
高橋哲哉「靖国問題」(ちくま新書)-1
高橋哲哉「靖国問題」(ちくま新書)-2
村山富市/佐高信「「村山談話」とは何か 」(角川oneテーマ21)
2019/05/14 樋口 陽一「個人と国家―今なぜ立憲主義か」(集英社新書) 2000年
2020/10/22 斉藤貴男「安心のファシズム」(岩波新書) 2004年