odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

網野善彦「日本社会の歴史 上」(岩波新書) 教科書に出てくる時代区分や政権の名称を使わず、社会システムの変遷として日本の歴史を見る。列島に住む人たちの生活や暮らしは重層的で多様。

 「日本」概念ができて共有されるようになったのは7世紀以降。それ以前は、「日本」「日本人」はいない。アジアとの関係、人間社会にフォーカスする。

第1章 原始の列島と人類社会 ・・・ 日本列島も氷期間氷期で姿を変える。およそ8000年前に現在とほぼ同じ列島になる。確実に人がいたと言えるのは4万年前。漁労・採集と海洋交易。贈与と互酬の集落があり、複雑な呪術的性格を持つ集団(小規模血縁集団(バンド:~80人)、部族社会(トライブ:~数百人)になって、社会的分業を営んでいた。東西で人口が極端に違い、農耕は紀元前4世紀ころに始まる。
縄文時代生活様式は、世界の先史時代における狩猟・漁撈・採集民の文化の中でもその成熟度が最高の域に達して」いた(P21)。
井上光貞「日本の歴史01 神話から歴史へ」(中公文庫)

第2章 首長たちの時代 ・・・ 漁撈・狩猟・採集社会は東日本に多く、これらは農耕をさけた。農耕社会は西日本に多く、集団労働の指導・倉庫管理・祭祀の実行などから集団の規模が大きくなり、首長社会(チーフダム:~数千人)となった。首長社会は海洋的性格をもっていた。4世紀ころから朝鮮との通交関係が緊密になり、物・人・技術が往来する。近畿の大首長は中国王朝との関係をもっていた(当時は無文字社会。当事者による記録はなく、中国の史書の記述を参考にする)。

第3章 国家形成への道 ・・・ 6世紀になって半島情勢の激動に伴い首長連合の争いが熾烈になる。近畿の大王の支配体制が強化される。権力強化、中央集権化を目指し、仏教・道教と祭祀体系をまとめたのが厩戸王子(聖徳太子)。このころまで古墳時代。次第に古墳の規模は小さくなっていく。

第4章 「日本国」の成立と列島社会 ・・・ 7世紀の政変。首長連合のなかでヤマト王権が最も大きい。645年の大化のクーデターで覇権を握り、672年の壬申の乱で東国を支配下に置く。689年に日本・天皇が制度化され、701年に律令制を敷く。ヤマト王権農本主義と家父長制を全国にいきわたらせること。法を徹底し、文書主義の管理。とはいえ地方に派遣した国司は地元の郡司の助けなしでは政治ができず、二重権力のようになっていた。このときの中央集権化は徹底できなかったが、以後の日本の支配に大きな影響を残す。

第5章 古代小帝国日本国の矛盾と発展 ・・・ 8世紀。天皇の王権の最盛期であるが、同時に地方での権力は弱体化する。律令制はうまく働かず、土地の私有を認め(律令制では土地は天皇が貸し出したもの)、税金の取り立てを地方の豪族・郡司に任せなければならない。9世紀になると唐が衰亡しつつあり、半島情勢も緊迫。それに応じるように国家機構が解体の危機を迎える。朝廷は唐との関係を断ったが、民間の交易は盛んにおこなわれていた。併せて地域独自の権力が生まれてくる。
土田直鎮「日本の歴史05 王朝の貴族」( 中公文庫)

 

 教科書に出てくる時代区分(奈良時代とか平安時代とか)を使わない。それらの区分が朝廷権力に焦点をあてたものなので、実態に合わないからという判断だと思う。かわりに、西暦を使って100年ごとに違いを見ていく。
 古代は列島内の文化、体制は地域ごとにバラバラ。北海道、沖縄はヤマト政権の影響がほとんどなくて独自の文化と体制をもっていた。朝鮮半島との関係が深く、物と人の行き来がきわめてさかん。ヤマト王権は水田を普及させようとしたが、実際は畑作・漁撈などさまざまな生産様式があった。律令制はむりやり水田管理にした。
 教科書ではヤマト王権が勢力を拡大していく過程として書かれているが、東北や南九州、沖縄などにはヤマト王権に敵対する勢力もあり、独自の文化を持っていた。王権の外の人たちをヤマト王権と同等の存在としてとらえると、列島に住む人たちの生活や暮らしが重層的・多様であることがわかる。この国が一つの文化、一つの民族でできていたわけではないということを認識するのは重要。
 
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2023/07/06 網野善彦「日本社会の歴史 中」(岩波新書) 中世の日本。西の大和朝廷は中国化・グローバル化を目指し、東の武士政権は江戸時代化・鎖国化を目指す。 1997年

2023/07/04 網野善彦「日本社会の歴史 下」(岩波新書) 貨幣経済は米本位制の封建社会を窮迫させる。諸藩の改革は重商主義やグローバル化だったが、明治政府のネトウヨ政権はそれをつぶす 1997年