odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

貝塚茂樹「中国の歴史 上」(岩波新書)-1 古代から春秋戦国まで。宗教都市国家が官僚制国家に成長する。

 中国の歴史は断片的にしか知らないので手軽な通史を読む。高校生時代に、この3巻を通読したとはいえ、半世紀近くたっているとなると、初読に等しい。また1964年初出なので、学問的には不備があるはず。とくに考古学などの科学的知見に乏しい。本書でも上巻の古代では、正確に書けないところが多発し、想像や神話に頼るところがある。そのような不備は飛ばし、自分の関心である国家の成立を読んでみたい。
 箇条書きでメモを残す。

・中国は、黄河揚子江(ママ)・珠江の流域を指す。とても広大な地域ではあるが、地理的には孤立していた。先に成立していたメソポタミア、エジプト、インドの文明との交流はほとんどない。巨大山脈と砂漠に囲まれ、海洋交易に不向きな地形だったため。でも広大な平野は自給自足体制ができたので、独力で文明化した。文字や儒教などのフォントを共通していたので大帝国を作ることができた。多数の言語があっても、漢字を使えばどこでも意思疎通ができ、祖霊信仰と儒教で考え方も似ていた。これは大陸の西にあった文明とは大きな違い。

・本書が書かれた時代は、最初の国家は夏、続いて殷、周、春秋戦国、秦と続くとされ、夏は存在しなかったのかもと考えていた。その後はもっと前に国家があった証拠が見つかったとか。おおよそ紀元前5千年ころには国家があった、らしい。どういう国家はよくわからないが、呪術的な宗教共同体だったのか、奴隷制国家だったのか。
(家族→部族→首長集団までは発展段階としてあり得たと思うが、そこから国家ができたとは思えない。多数の首長集団を統括する原理が国家に必要だと思うのだ。たぶん他部族の差別や宗教なのだと思う。)

・次の周になると、もう少し詳しいことがわかり、どうやら共通の祖先霊に祭祀を行う都市国家が多数あり、その都市国家連盟の盟主であったという。この都市国家は理性や合理で運営され、会議や多数決を使っていたらしい。血縁でつながった部族社会(トライブ:~数百人)ないし首長社会(チーフダム:~数千人)なので、「民主的」な運営が可能だったのだろうと妄想。

・この都市国家群が抗争するようになったのが、春秋戦国時代。ここで大きな転換が起こる。
ひとつが血縁集団の貴族制(世襲制)から血縁のないものが国家に入り運営する官僚制に変わったこと。官僚制を支える儒教が成立して、合理主義と人道主義があり法治主義ではない儒教の考えが国家の運営思想になったのだ。これで都市国家がより大きな国家に拡大することができた。
(なお世襲の貴族制では民主主義的な手続きが行われていたらしい。複数の貴族が権力と権威を同じようにもっているときには、政治参加と決定の平等を実現するために会議や多数決が使われる。でも一部エリートの官僚制になると、政治参加の機会が失われ、手続きもおろそかになる。民主制度による政治参加と官僚による手続きにはトレードオフがあるのか、このような矛盾を解決するやり方はいまだに見つかっていない。)
もうひとつは鉄製農具と貨幣の登場。技術革新によって生産性が向上(最新技術を持つ集団が周辺国家を支配することができる)、貨幣の使用(初期は呪術や祭祀に使ったのだろう)によって共通文化圏や経済圏が広がっていった。これも宗教集団を超えた統合を支えたはず。

・当時の戦争は車に乗った貴族の戦い。礼に従って行われた。それが「孫子」の兵法が成立したゆえん。

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都市国家が分裂し抗争していたので、諸子百家のような多様な思想が生まれた。強力な権力が一つの思想や宗教を押し付けなかったので。学問が隆盛するのは、これが条件なのだろう。同時代のアテネその他のギリシャ都市国家で多様な思想が生まれたのと並行関係にありそう。

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 以上、上巻の半分。春秋戦国時代まで(紀元前2世紀ころか)。エジプトやインドと異なるのは国家宗教はなくて、かわりに儒教という合理思想が国家を統合する理念になったことか。儒教は祖霊信仰を推奨するが、一つの神を奉じることはないし、祖霊信仰を他者に強制することもない。ここが大陸の西の文明と大きく異なるところ。地理的に隔離されていて、他民族と他文明がなかなか入ってこないから、帝国への統合はやりやすかったのだろう。周辺の小民族への差別や蔑視があった。ただ人種差別や民族差別は国家統合の理念にはならなかった模様。

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2024/02/15 貝塚茂樹「中国の歴史 上」(岩波新書)-2 秦・漢から三国志の時代まで。都市国家連合から官僚による専制国家が誕生。 1964年に続く