その昔、エフェサスとシラキュース（いずれも都市の名）は犬猿の仲であり、互いの市民は相手の都市に行ったら死刑、もしくは1000マルクの身代金と引き換えに釈放という決まりを作った。とはいえ、同じ地中海の都市であって、不運に嵐にでもあえばいやおうなく都市に乗り付けることもあるのだ。そのような不幸が訪れたシラキュースの商人が嘆くには、33年前に双子の兄弟が生まれたが、帰途中嵐にあって、兄の方と妻が行方不明になってしまった。ずっと探しているが見つからないので、もうあきらめている。死刑になるのは仕方がない。
さて、エフェサスではおかしなことが起きていた。エフェサスの高名な貴族アンティフェラス兄にはドローミオ兄という召使がいたが、その日に限って、ドローミオ兄に命じたことがちぐはぐとなってしまう。エフェサスを訪れていたシラキュースの商人アンティフェラス弟にはドローミオ弟という召使がいたが、その日に限ってドローミオ弟に命じたことがちぐはぐになってしまう。そのうえアンティフェラス弟はエフェサスに来たのは初めてなのにもかかわらず、市民はとても友好的であるだけでなく、招待してくれるわ、大金を押し付けられるわ、豪華な新品の首飾りを渡されるわ、仕立て屋が絹で服を作るからと採寸を始めるわと奇妙な事ばかりがおこる。そのうえ、角突き合わせた女たちがアンティフェラス兄に押しかけ、どうにかしろといいたてるわ、金細工師は代金未納で警察に逮捕させるわといつもの権勢がちっともいうことを聞かない。次第に混乱は広がって、魔法使いか悪魔の仕業か。修道院に逃げ込んだ兄のところに、市政をあずかる公爵と死刑囚が来て騒ぎの様子をきいている。そこにアンティフェラス弟とドローミオ弟がおっとり刀で現れたので、さあ大変・・・
とりあえず1594年に書かれたらしいシェイクスピアの最初期の喜劇（もっと前という説もある）。このあとの諸作に比べると、筋は単純で登場人物も少ないしセリフの量も少ない。大作一作の上演ではなく、喜劇二本立てのひとつという趣き（のちにはそういう上演もあったそう）。二組の双子がでてくるので（しかも重要なキャラだ）、配役をどうするか難しそう。そうそう双子の俳優がいるわけでもない。では、背格好のよく似たものを兄弟に配置するのか、それとも衣装は全く同じで明らかに別人と見えるものをそれぞれに当てるか。後者のほうが、観客受けはよさそう。なにしろ観客には別人とするわかるのに、登場人物はふたり（二組）を区別できないのに笑えるからね。
本作の特長は、地口、しゃれ、頭韻押韻などの言葉遊びがふんだんにはいっていること。アンティフェラスとドローミオの会話はほとんどがこれ。相手の会話の一部を切り出しては、別の言葉にしゃれて返す。そこで聞き間違いや言い間違いのすれ違いが起きないのはみごと。元の文をそのまま訳しては、日本語の意味が通らなくなるので別に置き換える。翻訳はとても大変と思いますが、小田島雄志はよくやってます。
まあ、この一作だけでは文学史に名を遺すことはなさそう。のちの傑作・優秀作があってこそ読まれる愛すべき小品です。研究者は「ベニスの商人」「ハムレット」「お気に召すまま」なんかとの関連をみそうだが。
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