odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

佐藤百合「経済大国インドネシア」(中公新書) いずれ日本のGDPを抜く東南アジアの大国。

 最後の章で、日本人はインドネシアの見方を変えろと主張する。そのとおりであって、インドネシアを観光国、資源供給国とみるのは1930年代の南進論以来の思考。そこにあるアジア人差別は1940年代の占領にあり、抗日の激しい反発を招いた。戦後はODA供与先として経済投資の相手先とみる。21世紀になると、日本のハイテクやポップカルチャーに関心を持っている国としてみるくらいか。でも、本書によると、スハルト権威主義政権が倒れると、6年半で民主化を達成し、安定政権ができたことで経済発展が著しい。おそらく日本のGDPはいずれインドネシアに抜かれると予想されている。それは脅威なのではなく、世界システムの覇権が移っていく過程としてみるべきなのだ。
川北稔「世界システム論講義」(ちくま学芸文庫

 インドネシアが経済成長すると考える理由は、人口ボーナスがあるため。他の先進国(中国、ロシアを含む)が20世紀後半の経済発展などによって少子高齢化が進み、国内市場が停滞から縮小しているときに、インドネシアは21世紀にもピラミッド型の人口構成になっている。人口もインド、中国、アメリカに次ぐ2.4億人という大人数。そのうえ社会インフラの整備が遅れているので、投資先がとても大きい。民主化以降、教育体制を整備しているので、労働者の質が上がると期待されている。実際にインドネシアは20世紀末の通貨危機を乗り切って成長ステージに入っている。
 インドネシア紹介の文章を書くなら、上述のように南進論から始めなければならないが、ここでは1998年のスハルト退陣から筆を起こす。すなわちジャワ人でイスラムで元軍人のスハルト権威主義体制を作ってきた。政治的には独裁で、経済は統制。その結果、汚職などの不正が蔓延し、民主化を要求する人々を弾圧して国際的に非難されていた。上記1997年の通貨危機によって老人スハルトが退陣。以後、スハルトを支えた政治システムを変え、三権分立と大統領の直接投票制にした。汚職の摘発を進め、自由経済体制にした。華人差別を撤廃した(それまではアイデンティティカードに特別なコードをつけていた)。
 本書は2011年に出たので、記述はここまで。以後をみると、2014年に非軍人のジョコが大統領になり、2024年の総選挙でプラボウォ・スビアントになった。プラボウォは軍の最高幹部としてスハルト政権を支えた。ジョコとは2014年と2019年の大統領選で争って落選。2024年はジョコが引退した後の選挙で当選した。この経歴は気に入らない。バックラッシュが起こらないか、心配になる。
 インドネシア民主化に不安があるのは、在野に政権を担当できる民主化グループがなさそうなこと。汚職議員や官僚を排除して政権を樹立したとしても、次の民主化政権が脆弱であれば、全国組織をもって(それなりに)地方に基盤をもっている軍が権威主義政治をやろうとしてしまう(そういう国は多数ある)。これは日本でもそうだった。在野の反権力運動と組織は民主化に絶対に必要。

 

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 2024年のインドネシア大統領選の結果に懸念する人がいた。周辺諸国権威主義化していくので、おのずと人々は他国に負けない権威国家を望むようになる。
2024/2/20 東洋経済
インドネシア大統領選で浮かび上がった、東南アジアで進む権威主義の深化と政治の王朝化

news.yahoo.co.jp