odd_hatchの読書ノート

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池明観「韓国 民主化への道」(岩波新書)

 韓国の1945年の日本からの解放後を、民主化という視点で歴史をみる。1980年以降の韓国の民主化運動は、とても参考になる。どころか、日本は学ばなければならない。ことに、不正をする大統領を辞任に追い込み、逮捕させた2016年のろうそく革命(100万人でもが繰り返された)。あいにく、本書は1995年初出なので、そこには触れていない。

序章 朝鮮、その山河と人びと ・・・ 1945年以前。中国の影響と独立運動、日本への抵抗など。
(山河やなどへの愛着、つつじやむくげなどへの郷愁。日本人は郷土や特徴的な動植物へのナショナルな感情を語ることができるか。富士山や桜などは明治以降に作られた愛国の象徴だろうし。)

第1章 分断された国 ・・・ 1945から1960年まで。日本からの解放後、政権を担当できる集団はなく、アメリカとソ連は独立を拒否。それぞれが極右と極左の政権を作って、1947年に分断して独立。直後に朝鮮戦争。韓国では極右政権ができたが、1960年の四月革命で打倒。
(WW2では半島が戦場になることはなかったが、朝鮮戦争で戦場になった。互いの首都が陥落したという経験は、両国にとって強いトラウマになった。韓国が長い間反共イデオロギーであったのは、この時の恐怖感に由来するところが大きい。)

第2章 軍部独裁の登場 / 第3章 「十月維新」と民衆 ・・・ 1960年と1972年の朴正熙によるクーデターと軍事独裁政権。反共イデオロギー権威主義社会、開発独裁、1965年日韓条約締結後の日韓癒着。毎年、反政府デモが起こり、激しい弾圧を受ける(毎年のように死者がでた)。この時期の運動は下記エントリーを参照。
2013/07/29 T・K生「韓国からの通信」(岩波新書)
2013/07/26 T・K生「続・韓国からの通信」(岩波新書)
2013/07/25 T・K生「第3 韓国からの通信」(岩波新書)
2013/07/24 T・K生「軍政と受難」(岩波新書)
(1960年、李承晩亡命後に民主政権ができたが政争で安定しなかった。政権を担当できる組織やグループがないと、全国に組織を持つ軍隊が政権を持つようになる。あと、朴政権時代の日韓癒着で日本の戦争責任がうやむやにされた。)

第4章 民主化への道 ・・・ 1979年朴正熙暗殺。そのご中央情報局の全斗煥がクーデターで政権掌握。1980年光州事件。その後も弾圧を続ける。1987年六月抗争で民主派の要求をいれ、同年に16年ぶりの大統領選挙が行われた。金大中も立候補したが落選。1993年に金泳三が大統領に選出し、民主政権になる。
(国民の民主化要求が強くなり、その要求にこたえる政党が組織されるようになると、軍人は政治的に弱体化する。なお本書の記述はここまで。韓国の大統領は変わったが(軍事政権時に抑圧された金大中も1998年 - 2003年に大統領になる)、北朝鮮の存在があるので、融和や友好の政策はなかなか取れない。最近のエポックは2018年南北首脳会談で両国首脳が会談を数回行った。アメリカのトランプ大統領北朝鮮の首脳と会談した。日本の安倍政権はこの友好外交から除外された。なお、北朝鮮がミサイル実験を繰り返したので、2021年現在首脳会談は停止している。)

第5章 漢江の奇蹟 ・・・ 韓国経済史。植民地時代は日本の収奪にあい、技術が移転されなかった。光復後は土地改革が進まず、アメリカの援助に頼らなければならない。軍事政権時代は日本の投資とベトナム特需に依存。経済成長はあった(漢江の奇蹟)が、軍事費が高く、投資に回らない。日本企業の搾取はひどかった。
(1990年代から著しい経済成長。日本がバブル崩壊になったとき、韓国は好景気。1997年の貨幣危機があったが、以後は順調に成長。2020年には平均所得で日本を抜いた。サムソンやヒュンダイなどの韓国企業の成功を勉強しないといけないなあ。時に同族経営や政界との癒着が問題になったりする。)

第6章 抵抗の風土、その伝統 ・・・ 韓国の圧政に対する抵抗。その精神的背景にある儒教、仏教、キリスト教

第7章 アリランの歌 ・・・ 植民地時代、軍政の時代には文化は弾圧された。
(21世紀になると、世界市場を意識したコンテンツが国の予算で作られるようになり、POP歌謡・テレビドラマ・映画で世界的な人気を博している。クラシック音楽でも世界的な演奏家を排出。小説もよいものが出ている。日本の商業文化は貧しく、つまらないものになってしまった。)

終章 東アジアのかけ橋 ・・・ 韓国は植民地時代の記憶で反日帝国主義、軍事政権時代の北朝鮮恐怖と反共イデオロギーがあった。なので、日本、北朝鮮、中国、アメリカには友好と反発の関係を結んでいた。経済発展(および国際イベントであるソウルオリンピックの成功)で北朝鮮や中国への恐怖心が薄まり、経済発展でアメリカや日本に依存しないでよくなった。民主化によって、これらの国々と友好な関係を作ることが可能。
(で、21世紀の10年代には、北朝鮮をめぐる協議では主導的な役割をもつようになり、オルトライトの安倍政権の日本は国際外交の重要性を失いつつある。)

 

 著者は1924年生まれ。大学教授で1974年から93年まで日本で教鞭をとっていた。すなわち、植民地時代・朝鮮戦争・軍政時代・民主化を体験し、朝鮮と韓国と日本に住んだことがある。この稀有で豊富な体験が本書に反映。祖国や故郷の自慢にならず、批判と非難の押し付けにならず、冷静な筆致で韓国の抵抗と苦難の歴史を書いている。もちろん上にあげた「韓国からの通信」のような過酷で熾烈な弾圧を知っているはずであるが、そこを強調しないのは、抵抗運動の参加者を被害者にしないためであろう。
 感想に書いたように、韓国のナショナリズム民主化運動と経済発展は日本人には謎であり、「教科書が教えない歴史」になっている。まずはこれを知らないと、経済と国際政治で存在感を示している(日本を凌駕しつつある)韓国との関係を結ぶことはできそうにない。