odd_hatchの読書ノート

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エリエット・アベカシス「クムラン」(角川文庫) 死海文書をネタにしたミステリー。それより音楽やダンスによるトランス状態が重要であるユダヤ教に「異」なるものを見る。

イスラエル建国前夜、クムラン洞窟で二千年の封印を解かれ発見された死海文書――。そして半世紀後、この謎に満ちた古文書の盗難を発端に恐怖の殺人事件が始まる。古文書捜索を依頼された考古学者ダビットと息子アリーは真相を突き止めるため旅立つが、接近を図る人物がことごとく磔の犠牲者と化す。やがて魔の手は彼らにも忍び寄り、ついに二人を引き離し――。それほどの危険を孕むこの死海文書、いったい何が記されていたのか?その謎に触れる時、クムランで何かが起こる……!弱冠二十七歳で本書を発表、世界中で熱狂的支持を受けた若き哲学者の話題作、待望の文庫化。
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=199999284701

 積極的な評価をすれば、歴史ミステリーとしては丹念な考証を行っていること。「死海文書」やエッセネ派のことは多少知ってはいたけれど、ユダヤ教のタルムード研究や写字生などの生活はほとんど知らなかった。あるいはユダヤ教の宗教生活で、音楽やダンスによるトランス状態が重要になっていること、など。バリ・ヒンドゥーかヴゥードゥかしらと思えるような、エクスタシーの状態がユダヤ教にもあるなんて。そのことに「異」なものを見た気がした。彼らからすると、自分などは俗化された欲望の怪物になるのだろうが。
 バーバラ・スィーリングやエーリッヒ・フォン・デニケンあるいは「ダ・ヴィンチ・コード」とは異なる「史的イエス」の構築を目指している。もちろん学問的な考証に耐えることのできないフィクションだ。ここに描かれたイエスのあり方はどうかしら。イエスを身近にしたとも思えるし、神性をはく奪したとも思えるし。
著者のあとがきにひとつ文句。参考文献にマイケル・ベイジェント/リチャード・リンカーン死海写本の謎」とバーバラ・スィーリング「イエスのミステリ」を上げるのはいけない。学術書ではなく、トンデモ本に分類されるものだから。この2冊で初期キリスト教エッセネ派の勉強をしてはならない。)

  

バーバラ・スィーリング「イエスのミステリー」(NHK出版) 史的イエスの謎解き本。最大のトリックは宗教書や歴史書にカテゴライズしたこと - odd_hatchの読書ノート
ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード」(角川文庫) 中心的な興味は歴史の謎。それを除くと、あんまりうまくない巻き込まれ型サスペンス。 - odd_hatchの読書ノート