odd_hatchの読書ノート

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赤川次郎「幽霊列車」(文春文庫)

 「とある温泉町で列車に乗った7人が忽然と姿を消すと言う事件が起きた。宇野警部は休暇も兼ねて捜査に赴いた温泉で、女子大生の夕子に出会う。事件に興味を持った夕子は、宇野の姪と言う事で一緒に捜査に乗り出す。非協力的な村人達の中で、唯一協力的な健吉少年が頼みの綱だったが、真相を掴まれそうになった犯人は二人を殺害しようとする・・・。」

 岡本喜八監督が映画をとることができなかったとき、TVドラマを演出したことがあった。幽霊列車がそれ。オリジナルではなく、少し後の再放送(夕方の穴埋め番組だった)でみた。たしか主人公の刑事が田中邦衛で、魅力的な女子大生が浅茅陽子だった。覚えているのはラストシーンで、主人公の部屋にいたヒロインが裸になって主人公にせまるところくらい。地方の日本旅館の凡庸な客間で、浴衣を脱ぎ捨てた浅茅陽子の白い尻が印象的だった(調べてみたら、殿山泰司天本英世も出演していたのね)。
 というわけで(どんなわけ?)、オリジナルの小説を読む。ええと、1970年代の積極的な女性をミステリに取り込んだというのが、新機軸になるのかな。それまでのヒロインはどうしてもバーのママさんとか、キャリアOLだったりしていたので、「女子大生」というのが新鮮だった。おにゃんこクラブも深夜番組の女子大生ブームもこの小説の発表の10年後。作者の当時の年齢と主人公の年齢がそれほどずれていないのでリアル。都筑道夫のコウコシリーズは作者50代の作品であって、どうもらしさにかける若い女性だったのだが、こちらでは「らしい」キャラクターだった。のちにたくさんの女子高生もの、女子大生ものを書いたのはご承知のとおり。とはいえ、人間が生きているかというと、ちょっと不足かな。マンガ的なキャラクターはたっているのだが。
 ミステリの形式を問うような問題作はない。すでにあるジャンルを軽いタッチで書いたというのがこの人のありかた。最後の「善人村の村祭」がモダンホラーのようで、トライオン「悪魔の収穫祭」のような閉ざされて外界との接触のない閉鎖された村の恐ろしい習俗が外部の目で暴かれていくという趣向がおもしろかった。本邦作でこういう趣向のはかなり早い時期ではなかったかしら。
 面白かったのは著者の略歴で、小学生から小説を書き始め、高校生で千枚の長編2つをものし、就職した後も書き続け、純文学にもミステリにもシナリオにもジャンルに関係なく投稿していた。結局、「幽霊列車」がたしか文春系の雑誌で入選してそこから職業作家になった。なるほど、ブラッドベリスレッサーなんかのペーパーバックライターと同じ経歴なのね。あの多作もそういう修練があってのことなのか。すげえ。それからこの人は、村上春樹と同い年。風俗の取り上げ方や人の見方なんかに似ているようなきがした。二人のデビューも同じ時期。大いに売れたのも同じ時期。なるほどね。