odd_hatchの読書ノート

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江戸川乱歩「続・幻影城」(光文社文庫)

 「続・幻影城」は「幻影城」の3年後、昭和29年の発行。
 解説にあるように、「幻影城」は総論で、「続」は各論という趣き。前者は新しい作家や作品の紹介に力を入れて、後者では小説のテクニックや歴史についての話題が多い。注目するのは、こちらには渾身の「類別トリック集成」が入っている。これを編むのに長短編あわせて500を超える小説を読み、メモをつくったというから驚き。さらには若い探偵小説好きの人々を集めて、定期的な会合をもち、国産の小説を加えた。集まった若手のほとんどはのちに作家になったが、異色なのは中島河太郎と宇野俊泰がいたこと。ふたりとものちに創元推理文庫で活躍した。また若い矢野徹も乱歩に協力していた。

 江戸川乱歩の方法が、梅棹忠夫「知的生産の技術」(岩波新書)と同じであることに注意。乱歩は読んだ本をカードに記録し、膨大なデータの作成と管理を行ったのだった。カードをいろいろに並べ替えし、時に別のカードや原稿用紙に書き写して、分類と体系化を検討した。数名の協力者がいたとはいえ、手書きカードだとたいへんだよなあ。その場に行かないと作業はできないし、カードを勝手に並べ替えるとほかの人の迷惑になるし。しかもトリックを集めるカードと書肆を集めるカードを二重に作るかもしれないし。もしも乱歩がPCを持ち、カード型データベースソフトを使いこなせていれば、もっと多くの例を集めて、魅惑的なリストになっただろうに。このデータベースだと、個々のレコードの詳細を見ることもできるし、さまざまなやり方の集計もできるから。
 そういう先人のいたおかげで、とりわけ博物学的情熱で収集した人がいたおかげで、そのあとの探偵小説初心者はこの本などを熟読玩味して、書名リストを記憶して、探偵小説を収集したのだった。古い創元推理文庫やハヤカワポケットミステリーの出版リストを見ると(以前は毎年定期的に印刷され、本屋で無料でもらえたのだった。本を買う金に困っていたとき、出版リストを眺めて次にどれを買うか逡巡したものだなあ。簡明なサマリーを何度も読めば、本文を読まなくてもその本について語ることができた。ネットに移ってしまって、リストを眺める楽しみを失ってしまった)、江戸川乱歩のこのエッセイ集に準拠して文庫を構成したのがよくわかる。
 では、このエッセイを楽しみながら読んだかというと、さにあらず。というのも、「続・幻影城」に収録されたエッセイをいくつかピックアップしたものを「探偵小説の謎」というタイトルで現代教養文庫が出版していたからだ。この大部な「幻影城」「続・幻影城」は入手困難だったしね。「続・幻影城」にあって、「探偵小説の謎」に収録されたエッセイのタイトルを掲げておく。全部ではないので注意。
「探偵小説に描かれた異様な犯罪動機」「兇器としての氷」「顔のない死体」「隠し方のトリック」「変身願望」「原始法医学書と探偵小説」「明治の指紋小説」

 中学2年から3年にかけて「探偵小説の謎」を繰り返し読み、その内容をほとんど覚えてしまい、黄金時代のミステリのトリックを先に知ってしまった。おかげで、トリックがそのとおりに書かれていることを確認するために、小説を読んだことがあった(「Yの悲劇」「アクロイド殺害事件」「黄色い部屋の謎」あたりは犯人とトリックを知ってから、小説を読んだ人が今ではおおいのではないかな)。それはそれでガキのときには満足していたとなると、探偵小説の楽しみは転倒している。やはりおかしな話だろうなあ。できれば、海外ミステリの古典を100冊くらい読んでからこれらの乱歩のエッセイを読むのがいいと思う。