odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「暗殺教程」(光文社文庫)

「TULIP (「チューリップ」、The Undercover Line of International Police) はニューヨークに本部を置き、世界各地に支部を持つ腕利きの対謀略組織である。そこで働くエージェントは、スパイキャッチャーと呼ばれている。国際謀略叛乱グループ TIGER (「タイガー」、The International Group of Esplionage and Revolt) と対決するTULIP日本支部のスパイキャッチャー、コードネームJ3こと壇俊介の物語である。」

ja.wikipedia.org


 wikiの記述はテレビドラマのもの。

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 小説の主人公は吹雪俊介。東名高速道路(できたばかり)をコルベットスティングレーで疾走中、何者かの襲撃を受ける。撃退した後、吹雪は名古屋のカジノで、続いて都内で、謎の組織がTulipせん滅を目指していることがわかる。続いて郡山のスキー場で、那須の当たりの山中で待ち伏せにあう。そのころには敵はTIGERであることがわかり、アジトは香港にある。単独で潜入した吹雪は現地のエージェントの協力を得て捜査を開始するが、とらえられマカオの遊園地に閉じ込められる。そこで暗殺者たちの襲撃を潜り抜けるゲームをすることになる。相手の思惑を外したもののとらえられ、秘密裏に瀬戸内海の孤島に連れ込まれる。そこで敵のボスとの最終決戦・・・。
 懐かしいなあという既視感があったのは、ここに惜しげなく投入されたギミックや設定がのちのセンセーの冒険小説を思い起こさせるからだ(今回の再読は後の作からさかのぼるように読んでいるため)。あげてみるだけでも「なめくじに聞いてみろ(敵の設定と侵略意図がTIGERとよく似ている)」「闇を喰う男」「未来警察殺人課」「銀河盗賊ビリイ・アレグロ」「暗殺心」「翔び去りしものの伝説」など。中短編にもありそうだが、個々のタイトルを思い出せない。
 作者は「ミステリ・マガジン」編集長時代にフレミングの007シリーズを本邦に初紹介した。若い時から時代小説や講談ものでこういうアタック・アンド・カウンターアタックの小説を書いていた。それらの知恵と技術を組み合わせた本作はうまくはまった。味方と敵のバランスが良い。たいていの冒険アクション小説では前半敵が強すぎ、後半無敵になってしまうから。のちの作からすると、主人公は葛藤のないスーパーマンなので、小説は表層的なのだが、これほど面白ければよいでしょう。
 雑誌連載(1965-66年)のために、アクションと冒険が連続し、状況を把握するためのダレ場がないので、読み疲れてしまう。そこだけが欠点。まるでいいがかりのようだな。後半、香港に侵入してからは吹雪の独擅場になって、前半のTulipのチームワークがなくなったのは残念と思っていたが、それは最後の謎解きにかかわっていたのを知ると、欠点ではなくなる。
 1965年ころの風俗は今からすると古びている(首都高が混んでいないとか、郡山へは下道でしかいけないとか)けど、「三大怪獣 地球最大の決戦」「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」「ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣」や「ウルトラマン」などの雰囲気を思い出せばいい。(とはいえ、スキーのスピード記録保持者として、三浦雄一郎の名前が出ていて、2019年現在でご健勝というのが驚き。)

 併録はシナリオ「スパイキャッチャーJ3 SOSポラリス潜水艦」。テレビドラマ用。この台本は使われなかったらしい。なるほど、当時のテレビや映画ではこのシナリオを映像化するのはできなかった。また敵の計略の大きさに十分なだけの登場人物がいないのもうまくない。ここらのバランス加減はむずかしい。ちなみに、都筑道夫「ドラマ・ランド」(徳間文庫)にはスパイキャッチャーJ3原案が収録されていて、その第1話が同じ「SOSポラリス潜水艦」。こちらは梗概なので、趣向を凝らすには枚数が足りない。こちらのシナリオのほうがおもしろい。