「悪を呼ぶ少年」に続く第2作。1973年。
大手会社の広告担当重役ネッド・コンスタンチンは社長とけんかして退社し、ニューイングランド州コーンウォール・クームという村に1700年代初頭に建てられた家を見つけ、妻と娘の3人で移住する。
この村は極めて閉鎖的で、容易に人の入ることのできない場所にあり、また人々は古い生活を変えようとしない。アーミッシュより少しだけ近代化された場所のようだ(クイーン「第八の日」も似たような場所)。
さて、物語を語る前に、この村の情報をまとめてみよう。
1.コーンウォールという名がついているように、この村はウェールズの移民たちの伝統をもっている。ここからケルト文明まで連想を働かせることができる。
2.村議会、警察などの公的機関はあると思えるが、ほとんど機能していないとみえる。かわりにウィドー・フォーチュンという産婆兼獣医が多くの祭事を仕切っている。ネッドは彼女を「女酋長」と呼ぶが、これはおそらく「メイトリアークmatriarch」の訳で、むしろ「女族長」と訳されるほうが多い。すなわち母系社会におけるリーダーかつ象徴的存在。フォーチュンは多くの問題を判断することをしているし、呪術的な医療の持ち主で村の医者の役割ももっている。
3.重要な祭儀として、収穫祭(とうもろこし祭)がある。この祭りでは、とうもろこし王が決められ、7年間村で大事にされる。7年が過ぎると、次の王が決められる。この決定は投票、会議その他の民主的な手続きではなく、トランス状態になった少女の霊媒ミッシーが指名する(以前は村の女性が評議で決めた)。そこでは豊作を祝ってかかしが燃やされる。そして奇妙なことにとうもろこし王は若死している。
4.村には他にも重要な祭りがある。奉納日にアグネス祭。伝承によると、アグネスという異邦の女性が村に来て、村人は彼女を殺したという。以来、禍が村に起きたので、それを避けるために彼女の名前を収穫祭につけたらしい。アグネスは子羊のこと。もちろんここから「犠牲の山羊(スケープ・ゴート)」まで連想を働かせることができる。実際、アグネス祭の最後には羊が巫女によって殺され、トランス状態になった霊媒が次の王を指名するのだ。
5.14年前に、自殺した女性がいて、彼女はいまでも村人から嫌われている。どうやらとうもろこし王に指名される女王をめぐる争いがあったためらしい。
6.村はずれの森は共有地とされているが、ソークス家という嫌われ者の一家が所有権を主張し、森の中に小屋を建てて住んでいる。森に近づくものは彼ら一家から脅されたり、追い払われたり、時としては威嚇射撃を受けることがある。一方、この森は霊媒や女族長が自由に出入りしている。
7.村の男は仕事において主張したり指導することはめったにない。たいていは無学。ときにネッドと同じインテリもいるが、盲目で村の政治に介入しない。
8.村の異邦人(行商人)や村から生まれる改革者(トラクターと購入したいとか農業大学に進学したいという希望を持つ青年)にはとことん厳しい。
1から4あたりまでで、フレイザー「金枝篇」を思い出すことになるだろう。森の王の代わりにとうもろこしの王がいるわけだ。とはいえ、自分は「金枝篇」を未読なので、ここあたりで筆をおさめよう。「金枝篇」の概要はこのサイトを参照するとよい。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1199.html
これらの情報は断片的に語られるのみなので、注意深く読み取ろう。自分は再読だから、コンスタンチン一家に感情移入しなかったからわかったこと。下巻では物語をかたることにする。
トマス・トライオン「悪魔の収穫祭 下」(角川文庫) - odd_hatchの読書ノート