読んだタイミングが悪かったな。もしも自分が20代で、何をしていいのかわからず、あまりある時間を無為に過ごすことがちっとも惜しくない時代に出会っていたら、この本は聖典のようになっていただろう。さらには、60年代のアングラロックやヒッピームーブメントに共感をもっていたら、さらに周辺情報を探すことをしただろう。
作家になろうとしている20代の男。とくになにをするでもなく、職にもつかずに、男たちとの共同生活。時に思い立っては、自動車に荷物を詰め込んで、アメリカ国内を無計画に移動する。行く先々で女をひっかけ、捨てて、次の町に移動。ときには麻薬を入手したり、その種の危険地帯に潜り込んだり。金がなくなると、親戚その他に無心したり、大学の奨学金をもらったり。こんな旅が数回続き、トータルで10年くらいこういう生活を続けたのだった。
いかんせんこの年齢になると、こういう若者の無軌道さには共感も理解もできないものになってしまって、むしろお前らは単に責任と義務から逃走しているだけではないか、自分よりも貧困にある人たちの好意に甘えているだけではないか、人生としっかりと向き合っていないのではないか、とどうにも共感できない物語だった。ほぼ同時代に南米一周無銭旅行に出かけたゲバラが「モーターサイクル・ダイアリーズ」で見てきたものと比べてしまうと、ことさらに。突飛過ぎるかもしれないけど、この一世代前の若者である中国人の放浪と比べるのはどうかしら。たとえばエドガー・スノー「中国の赤い星」(ちくま学芸文庫)、アグネス・スメドラー「偉大なる道」(岩波文庫)なんかと。
これを読んで思ったこと。このころの(かどうかはわからないが)、アメリカ人のセルフイメージは20代のはつらつとした青年なんだろうな。だから、何をしても許されるのだし、自分らの行為をすべてよしと自己規定するのだし、世界の悪に対して敢然と立ち向かう正義の人とみなすのだろう(ちなみに日本人は14歳の女子中学生をセルフイメージにしている、ように思う。ということを泉麻人がバルセロナオリンピックの岩崎恭子金メダルにからめてコメントしていた)。彼らの厚顔さをこういうドロップアウトの人たちにも見出した感じ。とくに最終章のメキシコを「天国」と見ている点で(お前らが裕福にあるのは、自分らのせいではなく、単に米ドルがメキシコ・ペソに対して圧倒的に強いからだけなのに。こいつらはそのことに気付かない)。
〈参考エントリー〉
無垢なアメリカ人も厚顔さ。
odd-hatch.hatenablog.jp
安オートバイで路上を走った青年の記録。
odd-hatch.hatenablog.jp