odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

レイ・ブラッドベリ「火星の笛吹き」(徳間文庫)

 ブラッドベリ・ファンの仁賀克雄さんがパルプマガジンから集めた本邦未訳の短編を独自に編んだ。1920年生まれのブラッドベリ雌伏の時代で、片端から書き飛ばしたもの。

火星の足跡1949 ・・・ 火星で二人だけ取り残され、地球に帰るあてもない。あるとき女の足跡を見つけ、二人はいさかいをはじめる。悲しくせつない結末。

防衛機能1946 ・・・ 火星で精神障害を起こした男。彼の治療のために催眠療法をかけたが、それは彼ら探検隊の危機を救うことになる・・・はずなのに。精神退行して少年に戻った男の内面描写がうまい。

振子1939 ・・・ タイムマシンを発明した男がその罪のために振り子に閉じ込められる。数世紀の往復運動。

地球のはぐれ者1948 ・・・ 精神障害を起こした罪びとはアステロイド(火星と木星の間の小惑星群)に放逐される。彼らの凶器を受け入れる星があるかもしれないから。エカテリーナ女帝の妄想を持った女の行く先は。

天国への短い旅1951 ・・・ 火星から神に会う旅に出かけようという広告につられてやってきた老婆たち。詐欺だとわかったあとにとった行動は。最後のイメージは別の短編でも繰り返された。

未来を救った男1947 ・・・ 仕事のない独身男にタイプライターが届けられ、500年後の未来を支配する独裁者の子孫を殺せという依頼が来た。未来からメッセージを送るのは死刑をまつ若い女性科学者。「ターミネーター」の主題がもうあったのだ。

青い蝋燭1942 ・・・ 妻を寝取られた男が奇妙な店で呪いをかけられる蝋燭を売りつけられる。F.ブラウン風の怪奇小説

死体回収ロケット1944 ・・・ 金星人との戦い死んだ兵士の死体を回収するロケット。そこに敵国の指導者の息子の死体が運び込まれた。たったひとつの冴えたやりかた

草の葉1949 ・・・ すでに30万年のロボットの治世で地球に生物はいなくなったのに、人工生物を発明した博士がいた。手塚治虫火の鳥」のエピソードを思わせる一話。

木星行きの予言者1948 ・・・ 火星−木星間のアステロイドは職人の勘で飛ぶものだったが、今はコンピューターに入れ替わっている。しかし火星人との戦いでコンピュター付のロケットは壊されてしまった。最後の職人、今はアル中の老人が最後のロケットに乗りこむ。「インディペデンス・デイ」みたいなお話。

生きているルアナ1948 ・・・ とある野蛮な星で異星人を殺したら、呪いをかけられた。

宇宙のヒッチハイカー1946 ・・・ 宇宙船に乗るには金がたくさんいるので、金のない連中は宇宙服だけ着込み、宇宙船の外壁にへばりついて惑星間を航行するのだった。ヒッチハイカーにも仁義はあるので、それを欠いてしまった男の行く末は。地球から太陽を見たいという男の願いは「マトリックス・レボリューション」のシーンと交差するなあ。

火星の笛吹き1943 ・・・ 粗野な木星人に支配された火星で、優れた火星人の笛吹きケラックが笛を吹く。それは木星人を魅了し、火星そのものも感動に打ち震えさせる。

ロケット・サマー1947 ・・・ ロケットに熱狂する群集は月着陸ロケットの打ち上げを要求する。しかし、このプロジェクトのマネージャー・スタンレーは危機を感じていた。この熱狂する子供たちに新しいおもちゃを渡してうまく使えるのだろうか。群衆の要求はさらに高まり、スタンレー家を取り囲むまでになる。彼は一計を思いつく。マンハッタン計画が成功し、自由主義ファシズムに勝利したとき、自由は何を求めるのか、あたりが主題かな。数年後を予告するような一編。

苛立った人々1947 ・・・ 1989年、アメリカとヨーロッパの三国同盟が戦争を開始。しかし銃器その他の野蛮な平気は使えない。なので、彼らが兵器に使ったのは捕まえられないビラにラジオに蟻に虻にチューインガムに・・・マルクス的ドタバタコメディに、男女の皮肉をこめて。

輝くフェニックス1963 ・・・ 在郷軍人で検閲主任が図書館の蔵書を焼き尽くすために、数十人を派遣した。しかし、誰もそれに抗議しないし集まってこない。「華氏451度」はこれより前だっけ、後だっけ?(調べたら「華氏451度」は1953年。)

よみがえるラザルス1984 ・・・ 火星と地球の戦いで宇宙空間を放浪する死体を回収する宇宙船(「銀河英雄伝説」の世界にもこんなものはあるのだろうか)。あるとき、とても古い死体を発見する。それは究極兵器を発明して自殺した伝説の科学者だった。

 宇宙船に異星人、ロケットにタイムマシン、宇宙服と熱線銃。衣装は新しいけれど(まあ21世紀に読むと一周してレトロフィーチャーの懐かしいものになってしまったが)、世界の構図は古いものだ。月はアメリカのフロンティアで、アフリカに冒険旅行に出かけた博士は土人に襲われ、火星や金星は19世紀の帝国主義戦争の相手国だし、宇宙船パイロットはカウボーイか保安官、宇宙船は駅馬車
 星新一がSFのアイデアをどこから得るのかという問いに、異質なもの同士を組み合わせろ(宇宙パイロットとキツネ憑きみたいな)といっているのを思い出した(「進化した猿たち」ハヤカワ文庫のち新潮文庫)。その実例ですね。