odd_hatchの読書ノート

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ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫) の続き。


 著者による歴史の形式化によると、ある集団がほかの地域を圧倒し征服できる要因は「鉄・病原菌・銃」のみにあるのではない。さまざまな要因の因果連鎖で、上巻153ページの図にまとめられている。以下の図は、それに基づく書き直し。文庫版800ページの記述は、この図の詳細な説明と事例紹介にある。なので、図を見ながら読むと理解しやすい。

 第1部は、ある集団が他の集団を征服した理由を検討する。ケーススタディになるのは、16-18世紀のヨーロッパによるアメリカ大陸の征服。スペインのわずか数百名の武装集団がインカ帝国とその他の先住民を滅亡したわけであるが、図によると欲説の原因は「馬」「銃・剣」「外洋船」「政治機構・文字」「疫病」である。この要因でもいいのだが、抽象度が低いので(このように大部であるので、図と記述で齟齬がでることもある)、「鉄・病原菌・銃」にまとめられる政治システム、環境・生態、技術の要因でみることにしよう。
 スペインの武装集団にみられるヨーロッパとインカ帝国に代表されるアメリカ先住民の違い。インカ帝国は大規模な人口を持っていたし、中央集権的な政治システムも持っていたし、情報伝達のインフラもあった。しかし、短時間でスペインの小数集団に圧倒される。しかも、その100年後になると、先住民の組織的な抵抗はなくなっていて、ヨーロッパ各地からの移民は苦労なく移住することができた。差異をみると
・ヨーロッパは数百人の集団と食料、武器その他の資材をまとめて送るだけの富と余剰食糧を持っていた。政治システムでは文字が使われ、情報伝達がすばやくできた。それが可能になったのは、中央集権の国家システムがあったため。
・ヨーロッパでは長年家畜を飼育していて、家畜由来の病原菌に対する免疫を持っていた。アメリカ大陸に遠征した時、ヨーロッパの人は現地の伝染病や寄生虫の被害をほとんど受けなかった。一方、アメリカ先住民はスペイン人らの持ち込んだ病原菌(天然痘、麻疹、インフルエンザなど)に対する免疫を持たなかったので、大量の人々が病死した。この本では北アメリカの先住民の95%が新しい病原菌に感染して病死したと推計されている。
・14-16世紀は産業革命以前ではあったが、ヨーロッパの人々は鉄製品をもち、外洋航海に可能な船と航海術があり、馬と車輪を使った運搬具を持っていた。これらの技術の優位性が、青銅しかもたず、徒歩で移動していた先住民を戦闘で圧倒した。ときに銃火器の所有の有無が決定的であった。
 このような社会システム、環境・生態、技術は、その他の集団の接触でも片方を優位にしている。アメリカ大陸の他、オーストラリア、ニューギニアにヨーロッパ人が移動したときでも、同じことが同地の先住民でもあった。小規模な例では、ポリネシアの島々でもある。この国でも、アイヌが人口を減らし、居住地を制限され、同化を余儀なくされてきた。
 以上の違いは、これまでは征服する側の優秀さに原因があるとされてきた。でも、考古学や生物学の知見をみると、そうではない。環境の違いとそれを利用する集団社会のあり方の違いで説明できる。

  

2016/03/21 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-3
2016/03/22 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 下」(草思社文庫)-1
2016/03/23 ジャレド・ダイヤモンド「鉄・病原菌・銃 下」(草思社文庫)-2 に続く。