19世紀は主に科学の時代であるが、経済学とともに民族学や考古学も研究されるようになる。ギリシャ、ローマ以来のヨーロッパ以外の文化、文明、民族などを「発見」して、より古い、昔の社会や生産のシステムがわかるようになってきた。1884年初版1891年改版のこの論文は、当時の代表的な研究書であるモーガン「古代社会」とバッハオーフェン「母権論」を読んでマルクスが書いたメモを使ってエンゲルスが編集したもの。資本主義より前の社会や集団でも、史的唯物論が適用できるという目論見で書かれている。
冒頭で、社会を野蛮/未開/文明の3つの段階に分ける。これを見た瞬間に、すでにこの本の価値はなくなったのがわかる。19世紀半ばから後半にかけての古代研究は20世紀の研究で乗り越えられているし、この本は生物学と進化論の知識がまったくない時期の記述なので、信憑性がひくい。など、いくたの欠点がある。(ダーウィンは「種の起原」をマルクスに贈呈したらしいが、マルクスは関心を持たなかったらしい。)
とりあえず記述をおってみると、
・家族の起源は闇の中にあるが(なにしろサルの集団から血縁のグループが存在しているから)、ヒトがヒトになってからは(はてどの段階でか?)、集団婚(複数のオスとメスが乱婚状態で父母と子の関係が明確でない)、対偶婚(一夫多妻ないし一婦多夫で母と子の関係は明確)、単婚(一夫一妻で父母と子の関係が明確)の順に発展してきていて、それは野蛮―未開―文明の集団の発展段階に対応しているのだって。私有財産が生まれるのは、食料生産と家畜の飼育が始まってからで、農耕地と家畜を私的に所有するようになったからだって。たぶん未開の初期段階あたりで私有財産が発生したと目される(はず、あんまり正確に読んでいない)。あと単婚になると、男が女を「私的所有」するようになり、性の商品化などが起きて、姦通と売春が同時に発生したそうな。国家の起源はアテナイ国家(ギリシャの自由都市のあとに成立)のとき。私的所有が一般になると生産する量に差異が生まれ、生産が拡大するにつれて分業が生じる。同時に生産した商品を交換する市場と貨幣もできるようになり、所有の格差が拡大し非生産階級も生まれる。で、この複数の階級闘争の結果、支配権を獲得した階級ができて「国家」となる。そのような支配階級は貴族と呼ばれる。
真面目にメモを取り理解を目指して読むようなことはしなかったので、このまとめはざっくりすぎるかな。
いろいろつっこみできる議論をマルクス/エンゲルスはしていて、食料生産と家畜を実現できるまでの育種の時間を短く見積もり過ぎだし、技術・文字・家族や氏族以外の社会システムを無視しているのはまずいし、集団が移住する可能性をみていないし、近隣の集団との交通で農耕や家畜、文字、技術などが伝搬したり、模倣したりする可能性も考慮していない。出来事の記述もヨーロッパに限られているので、市場や貨幣の経済システムはまだないか不十分だったと思われるエジプトやペルシャで国家が成立したというのも無視されている。ヒックス「経済史の理論」を読むと、市場と貨幣があっただけでは資本主義にはならず、いくつもの条件をクリアしないといけない。そこらも数行で片づけている。
あくびを噛み殺しながらの読書で、内容には「トンデモ」のラベルを貼りたいが、19世紀の著作だからそこまではしないでおこう。まあ、よほどの好事家向けで、そうでなければ読む必要はまったくない。ただ、国家や資本主義の起源は興味深いので、それは1990年以降の本を読んだほうがいい。とりあえず、ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上下」(草思社文庫)あたりから(これも専門家からすると、いいかげんなところがある粗い議論だとのこと)。
岸本通夫/伴康哉/富村伝「世界の歴史02 古代オリエント」(河出文庫)
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