odd_hatchの読書ノート

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会田雄二「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-1

 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)に続けて「世界の歴史12 ルネサンス」。ここでは1300年から1600年までのヨーロッパを扱う。われわれは世界史の教科書で「暗黒の中世」から「ヒューマニズムルネサンス」に転換したと習った。
 前掲書をみると、14世紀にはいくつかの停滞が起きる。ひとつは農業生産性がいきづまり経済停滞が起きた。ドイツの100年戦争、イギリスのバラ戦争など封建領主間の長い内乱が起きて、社会不安が起きる。騎士道が終わり、封建領主は没落。そしてペストの大流行。これらで人口が激減した。そこからの経済の「復興」と政治的権力の再編成が起こる。だが、この二つの本の記述を重ねて1000年ころから(ヨーロッパの農業革命の始まりということで)1600年までをみるとき、必ずしも中世とルネサンスの違いは明確ではない。この国の「建武の中興」とか「応仁の乱」のような明確な転換点とか象徴的なできごとが見当たらない。(そのためかヨーロッパの歴史で「中世」と「ルネサンス」を分けないという見方もあったような。)

 このように中世からルネサンスへの転換は緩やかで、ゆっくりしたもので、かつ地域的な差異があるので「ヨーロッパ」でひとくくりにするのは困難だ。「文芸復興」にしてもフィレンツェのダンテから、ロンドンのトマス・モアやロッテルダムエラスムスまで3世紀の時間差がある。ロジャー・ベーコンからデカルトまでの3世紀間はスコラ哲学のやり方で考えるのは一貫していたし。そのような漸進的な進み方ないし停滞に留意していおいたほうがよい。
 さて、ルネサンスの時代で注目するいくつか。
・資本主義の原型が作られる。1)教会や騎士団による為替の制度が民間でも行われるようになり、金融システムが整備される。それによって金融資本が成立。2)イタリアの地中海貿易で利益を得た一族から商業資本が誕生。ドイツの銀と中東の香辛料を交換する貿易は危険ではあるが高利益を得るようになる。その結果、資本を提供するものと起業するものが別になり、資本を投資する仕組みができる。あわせて、複式簿記など近代会計の原型ができる(当然その背景には、文字の読み書きができるとか数桁の計算ができるとかの教育の普及と知的レベルアップがあったわけだ)。3)工業の組織化。農家の兼業や職人の手作業であったのが、人数を集めて生産性を上げるやり方になっていく。イタリアの毛織物を除くと、ヨーロッパ以外への輸出品になりうる品質の商品はなかったが、17世紀以降に織物製品で世界を席巻する準備になった。あと、さまざまな技術の改良や工夫が加えられて技術全般の底上げがあったことも重要。産業革命は蒸気期間や自動織機のアイデアだけでは不可能で、さまざまな技術とインフラがないと実現できない。
・合理的、論理的思考の普及と人権意識の成立。普通ルネサンスの成果とされるところ。おもには聖職者や法曹、知識人などによって主導された(パリ大学で法・文・神・医の4部ができたのだが、このころに、知的研究と教育の専門家が職業になったのだね)。天体観測とか暦の作成などで「神」の存在を問わない思考ができるようになった。あるいは文芸や芸術でも聖書に題材をとらないテーマが生まれてきた。そこには上にあるように、文芸や芸術活動のパトロンが教会のほかに商人や市民、貴族に広がったというのが無視できない点。宗教家ではない人の趣味が反映していったと思う。モンテスキューには人権意識の、モンテーニュなどで民主主義の芽生えを見いだせる。
・地中海貿易がイタリアとビザンツに独占されていたので、排除されていたポルトガル、スペイン、オランダが地中海を使わない貿易航路を探すようになる。その結果、探検隊がだされ、発見された航路を使って貿易船がアメリカ、アフリカを経由してアジアやインドとの貿易を開始するようになった。中世では人々の活動範囲がヨーロッパにほぼ限定されていたのが、外に向かって広がっていった。「ヨーロッパ」が膨張していく。貿易による利益拡大がモチベーションになるが、その背景には資産の蓄積、航海術の発展、大型帆船の建設など「大航海時代」を支えるインフラと資産と技術の蓄積があった。
(ほとんど同じころに明が海上の航路の発見に乗り出していた。西と東の海上航路はインド周辺で出会う。これによって東西貿易の中心であったシルクロードが衰退。西域の大帝国が没落する。)
 以上が、ルネサンスのポジティブ面。この運動というか変化は、少数の人たちに起きたことで、今のマーケティングのことばではイノベーターとアーリーアダプターにあてはまる。

2016/04/12 会田雄次「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-2 に続く。