odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-2 本書と同じ問題設定で「現代ニッポン」をレポートしたら、きわめてお寒い内容になりそう。

2020/10/15 渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-1 2010年の続き

 

 後半になると、取り上げられた問題は、まさにいま起きていることになる。本書でも、サマリーでも、20世紀までのことしか書いていないが、それぞれの問題はいまのできごととしてメディアやSNSなどで追いかけるべき。

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第3部 アメリカの社会・文化(承前)
 第8章 「宗教」に現れるアメリカの特徴(藤原聖子) ・・・ アメリカは宗教分離だが「政府や公共機関は宗教にかかわってよいが平等に接すること」であって、フランスの「宗教を一切接しないこと」とは異なる。いずれも批判が出ていて、宗教分離の中身は議論がある。ずっとピューリタン的価値観が優勢。1960年代のカウンターカルチャーで宗教の多様化。80年代以降、宗教保守のバックラッシュと政治化。21世紀にイスラモフォビアなど宗教ヘイト。(ピューリタンなどのプロテスタントは保守が多数派。カソリックユダヤ教はリベラルが優勢。宗教保守の政治団体には原理主義が多くて、社会や政治に影響を深めている。)

 第9章 「ジェンダー」に見るアメリカの諸相(新田啓子) ・・・ 女性選挙権獲得運動からのフェミニズム運動の歴史。性の多様化とライフスタイル。保守派のバックラッシュ

 第10章 「アメリカ文化」のダイナミズム(生井英考) ・・・ それまでの共和主義が19世紀末に専門職エリートらによる革新主義に代わる。政府機能やビッグビジネスに適合し、社会中に浸透。21世紀には格差の拡大と多文化主義により、文化が統合のシンボルにならなくなり、官僚制とグローバル化に不満や不安が増す。新しい文化統合のメタファーはありうるか。
有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書) 
有賀夏紀「アメリカの20世紀 下」(中公新書)

第4部 アメリカの外交
 第11章 「アメリカ外交」はどこに向かうのか?(村田晃嗣) ・・・ 20世紀のアメリカの外交は調整役か警備役かの極の間を行き来する。戦争のたびに大統領の権限が強化され、WW2以降は平時でも戦争準備のために戦時体制が継続して大統領の権限が大きかった。ベトナム戦争の失敗などから議会は大統領の牽制を強化する。民主主義と安全保障の緊張関係が続く。

 第12章 アメリカは「帝国」か?(山下範久) ・・・ 帝国の意味は古典と近代で違うのでYesともNoとも言えないが、拡張主義的な近代の帝国的側面と、普遍的理念を追求する古典的帝国の側面を持っていて、緊張関係にある。アメリカが「帝国」であることは国民国家としてのアメリカが弱体化していることであるともいえる。
<参考エントリー>
藤原帰一「デモクラシーの帝国」(岩波新書)

 第13章 「日米関係」とはどのような二国間関係か?(篠原初枝) ・・・ 20世紀の日米関係史。協調、敵対、戦争、占領、同盟。戦後の日米安保。沖縄の基地。

 

 

 本書と同じ問題設定で「現代ニッポン」をレポートしたらどうなるか。きわめてお寒い内容になりそうだ。宗教保守が政治に介入していて政教分離は有名無実であり、女性の社会進出は世界で最下位をウロチョロする程度に変化が起きず、レイシズムが蔓延しヘイトクライムが頻繁に起こるがほぼ無視され、金をばらまく以外の外交ができなくて近隣諸国との関係は悪化し、近隣外国人には差別と搾取を常習している。
 そうなったのは、建国の理念や社会参加の意義を国も人々ももったことがなく、いつも機会に乗じようと右往左往することを繰り返してきたから。