odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

藤原帰一「デモクラシーの帝国」(岩波新書) 2001年911からアメリカが独断的に国際政治に介入し、世界を指導するという図式に変わった。

 1989年の東欧革命で自由主義国家と社会主義国家の対立がなくなった。一時期は国際連合のような国家間の利害調整機能が働くかに思えたが、2001年9月11日のテロののち、アメリカが独断的に国際政治に介入し、世界を指導するという図式に変わった。このようなアメリカを<帝国>としてとらえる。この場合の<帝国>は、ローマやビザンチン、中国の王朝のような古代から中世の巨大国家ではないし、共産主義者が資本主義の発展段階としてとらえた「帝国主義」の国家でもない。にもかかわらず、なぜ<帝国>概念を使うのか。というところから始まる。

第一章 帝国としてのアメリカ ・・・ 帝国は1)軍事大国、2)多民族支配、3)植民地経営、4)世界経済の支配体制、という意味をもつ。現代アメリカはこれらの定義と微妙に異なりながらも、いずれにも当てはまる。その際に重要なのは、アメリカは移民の国として生まれ歴史を持たないというところ。もともと多民族の集まりであり、ネーションを共有・共同する歴史や神話を持たない。そのために「普遍的」な理念でネーションを統合しなければならない。その普遍的な理念が「デモクラシー」である。および多民族の人々が絶えず流入していることから、国家の内と外の区別があいまいである。そのため、アメリカが世界を代表すると考える。そして経済力と軍事力を背景に、他国の政治不安や内戦などに介入し、普遍概念の実現にまい進するのである。ここには書いていないが、アメリカのデモクラシーは西洋のそれとは異なるところに注意。直接参加と個人主義が前提になっているところかな。なので、法と選挙が重要なのだ。参考映画「スタートレック

第二章 自由の戦士 ・・・ 普遍的な理念であるデモクラシーと人権が可能であるのは、それを保証する政体であるというのがアメリカの考え方。そこにたつときこれらの条件を備えていない政体は別の政体に変わらなければならない。そのためにアメリカは他国の内戦や政体に介入する。短期間で勝利を得てすぐに撤退するのは、アメリカの体現する普遍的理念に国内外が疑念を置かないようにするため。一方、強力な経済力と軍事力が新たな政体に圧力をかける。この図式は完璧な植民地政策といえる。また、アメリカは普遍的な正義を実現するのであるから、権力の行使に拘束が加わらない。アメリカを制裁する力が世界にもないので、権力の行使は制限がなくなる。参考映画「インディアナ・ジョーンズ」「インディペンデント・デイ」

第三章 闇の奥 ・・・ 世界の警察官としてのアメリカが誕生したのは冷戦後。そこではふたつのジレンマがあった。ひとつは最大敵国との戦争は回避されるが、周辺地域の政略にも軍事的に意味の少ない地域の戦争がエスカレートすること(それによる負担が大きくなったこと)。ふたつめは、植民地統治をしない代替策として現地に親米的(民主的・革新的・反共的)な政権を作ることになったが、そのような政権を作っても必ずしも安定した状況を作れないこと。例はベトナム。参考映画「地獄の黙示録」。グリーン「おとなしいアメリカ人」も参考に。

第四章 正義の戦争 ・・・ ベトナム戦後と東欧革命直後は国際協調と多国間協議が成立するチャンスであったとみなせる。しかし、アメリカは単独優位をとる道をとり続けた。2001年9月11日は決定的に<帝国>になる契機となった。すなわち、本土防衛と地域介入が結合し、アメリカ世論の結集と団結が起こり、戦争と正義が結合した。特に最後の主張を取るものはこれまで小数でしかなかったにもかかわらず。

第五章 帝国と地域の間 ・・・ でもって、911後の世界がどのようにアメリカ<帝国>をみるかを3つの視点でみる。ひとつはEUから、もうひとつは東アジアから、さらに「第三世界」から。もちろんアメリカの覇権というか軍事庇護にそれぞれ依存しつつ角つき合わせる東アジアという図式も面白いが、ここは1990年代以降のグローバリゼーションの進展と地政学的な意味の喪失によって「第三世界」は見捨てられたという見方が重要だろう。ナセルスカルノガンジーがいた1960年代のような「第三世界」が新たな協調世界を創るという理念が失われ、飢餓と内戦その他で生死の境界線にいるしかない荒廃した地域になった。アメリカの関心を引かない地域では荒廃が放置される。

終章 帝国からの選択 ・・・ アメリカの<帝国>化によっておきたことは、国際協調の展望が失われ国際組織の機能が低下する。個々の国においては、周辺諸国との協調は無視されアメリカの意向にあうような単独行動が進められ、アメリカの国内政策にあうような政策が取られ世界中で同一の政策になり多様性が失われる。第五章にあるようにアメリカに見離された国は荒廃するだけで、単独行動が周辺との軋轢を広げる。希望は、国際調整機能が働くことで、アメリカに依存することでも呪うことでもない。


 以上がまとめ。勉強になりました。経済と軍事はもうすこし分析が必要だけど、この小冊子には入りきらないので別途補完しておくように、ということかな。
 この国には資産があるので、アメリカ<帝国>はそれなりの礼を尽くすみたいだが、いつ方針が変わるかはわからない(1900-1945年の間の日米関係を思い出せばよい)。アメリカ憎しも、アメリカにすり寄れも、どちらも楽しい未来ではない。
 あとは、このアメリカ<帝国>とその他の国という構図をどのように崩すかというと、答えは難しい。やってはいけないのは昔ながらの抵抗とか革命とかそういうこと。きっとアメリカ<帝国>は全力でつぶしにかかってくるし、それに対抗できる力をもっているところはどこにもない。実行したらひどい荒廃が訪れるのではないかな。ではアメリカの内部変革を待つか? この国のように資産があれば少しは持つだろうけど、多くの地域は荒廃に向かうだろう。それが早いか遅いかの違いはあるとはいえ。それを放置しておいてよいのか。
 とすると、アメリカに依存しないでも継続する経済をつくるとか、荒廃している地域が自立できるような支援をするとか、国際協力や協調の仕組みを地道に運営し影響力を拡大するとか、だれでも思いつくような、しかしそれを実行するのは苦難続きの道くらいしか提示できないなあ。