odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」(文春文庫)

 サマリーを書くのも面倒なので、出版社のものを引用。

舞台は、アパートの一室。登場人物は、一組の男女。あの男の最期の姿、子供の頃の思い出——夜を徹して語り合ううち、共有する過去の風景に違和感が混じり始める。2人の会話のみで展開する濃密な心理戦、何が顕わになるのか予測がつかない異常な緊張感。ラストまで息もつかせぬ展開でグイグイと読者を引っぱってくれます。

books.bunshun.jp


 もう少し補足すると、男女は双子の兄弟。幼児期に別れ別れになったのをティーンエイジになってから再会。でも両親はすでにいない。ふたりは学生時代を同じアパートで過ごし、それぞれ恋人ができたが、現在を変えるまでには至らず、別れて二人暮らしを続けている。彼らが夜を徹して話し合うのは、ある時のハイキングのこと。ガイドを雇って山を登った時、ガイドが転落して死亡した。ガイドは二人の父だった。久しぶりの再会が思わぬ別れとなる。ただその死の顛末が不可解だったので、彼らは互いに相手が殺人を犯したのではないかと考えている。夜が明けたら、二度と会うことはないはずなので、疑問を解くのはこの夜しかない。
 解説の視点で考えていたら、別の小説を思い出した。夢野久作「瓶詰地獄」。あるいはムジール「特性のない男」。これらの現代版ですな、たぶん。
 となげやりな感想になるのは、地の文をじっくり読むことができなかったため。シナリオのト書きを引き延ばしたような状況描写に、とりとめのない連想飛躍。文章が薄くて軽くて、読書の快楽にまったくいたりませんでした。
 登場人物がたった二人というのは、キング「ミザリー」を思い出すけど、キングの小説がもっている象徴性や社会批判はない。二人の若者の閉塞的な感傷がつづられているだけ。ページを閉じると忘れてしまうような薄っぺらいキャラには興味が持てない。
 そのうえ荷物を運び出した後の安アパートで、コンビニで買ってきた総菜で酒を飲むという風景のわびしいこと。たぶん彼らの普段の生活の延長にあるのだろうが、日本人の生活はこれほどまでに貧弱でさみしいものになったのかと、読者の心を寒くする。多くの読者は自分の生活とほぼ同じ情景が書かれているので、感情移入できるのかなあ。2006年初出。
(直前に読んだドスト氏の「罪と罰」は、同じ貧乏生活を描写していて、より悲惨なのであるが、もっと人間的な興味や関心を引き出す見事な描写だった。)

(といって、浅見光彦の最後の小説とされる「遺譜 浅見光彦最後の事件」のように、章ごとに美女とグルメを楽しむ描写が繰り返されるのも興をそぐ。俺があまり食事やグルメに関心を持たないせいか。小説にでてくる食べ物で感心したのはヘミングウェイただひとり。)

<参考エントリー>
アーネスト・ヘミングウェイ「われらの時代に」(福武文庫)